2008-01-31(Thu)

中東の笛 卓上四季(1月31日)

卓上四季
中東の笛(1月31日)

「中東の笛」がきっかけでハンドボールに興味を持った、という人も少なくないだろう。そのおかげで、日本と韓国の熱戦がテレビやラジオで放送された。まともな判定の試合は気持ちがいいものだ▼「中東の笛」は笑ってしまう

ほどあからさまだ。中東選手の違反はとらない。相手側ならきれいなシュートも反則にする。不利に終わった前半戦の後、審判が中東の関係者に連れ去られたこともあった▼中東選手は審判のひいきを前提にしているようだ。だがゲー

ムはルールに従うから楽しい。自分の王将だけ飛車や角のように飛び回れる将棋、後出ししてよいジャンケンでは、やって面白くないだろう。ああいう勝ち方で満足ならば、競技者として退廃している▼日本のスポーツ界では、ボクシ

ング・亀田選手の「疑惑の判定」勝利があった。一般にはベネズエラ選手が勝ったように見えたため、日本国内で批判が起きた。ひきょうな手で勝っても、日本のファンたちは勝ったと認めない▼競技でフェアプレーを第一とみる精神

は、世界に共通するはずだ。だが実際には、それほど一般的ではないのかもしれない。公正さより勝利、という国民性は世界のあちこちにあるようだ▼偉い人に「美しい、美しい」とあおられた時には閉口したが、他国の競技者にも公正さを欠かさぬ日本の文化や国民性をみると、結構いいもんだ、と素直に思う。

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2008-01-30(Wed)

暖鳥(ぬくめどり) 編集手帳1月30日付

1月30日付 編集手帳
 
「暖鳥」という冬の季語がある。「ぬくめどり」と読む。鷹(たか)は寒夜、小さな鳥をつかまえ、その体温でおのが冷えた足を暖める。夜が明けると逃がしてやり、数日はその鳥を狙わないという◆そういう生態があるのか、幻想か

ら生まれた語り伝えか、おそらくは後者だろう。「吹きさらしの山で鳥も寒かろうよ」と冬の夜、冷えた自分の足をさすりながら物語を紡いだ古人の姿が浮かんでくる◆床暖房と電気毛布の夜では、「暖鳥」のような言葉は生まれにく

いのかも知れない。自分の感じた寒さから他者を思いやる。季節感は心の働きと深く結びついているらしい◆季節感が失われていくなかで季節とともに生きるリズムを取り戻そうと、本紙朝刊「四季」欄の俳人、長谷川櫂(かい)さんが

発起人となってNPO法人「季語と歳時記の会」が発足するという。歳時記のインターネット検索サービスや歳時記検定などを予定している◆「氷雨」が夏の部であったり、「花野」が秋の部であったり、季語も一筋縄ではいかない。

季節を楽しく学ぶことで、人の歩みがほんのすこし緩やかになり、道端の草や電線の鳥に向けるまなざしがほんのすこし優しくなればいい◆何日かすれば節分、明けて立春、暦の上の春も遠くない。北国で雪空を仰ぐ人の胸にも、「春隣(はるとなり)」という季語が浮かぶころである。

(2008年1月30日01時28分 読売新聞

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2008-01-30(Wed)

偽装管理職 天声人語2008年01月30日(水曜日)付

天声人語
2008年01月30日(水曜日)付

 かつて本紙に連載された4コマ漫画の「フジ三太郎」は、万年ヒラ社員だった。やっと昇進話があったが、ポストには空きがない。上司から「係長一応補佐仮代理」なる名ばかりの肩書を内示されて悲憤する。そんな場面があった▼

「肩書が長くなるほど、仕事の重要性は減る」と皮肉ったのは誰だったか。その点、「店長」なら、きっぱりした肩書だ。ところが名に伴う権限はなく、そのくせ管理職と見なされて、残業代は支払われないとしよう。ヒラの方がまだ

ましだと、三太郎も尻をまくるに違いない▼そうした名ばかりの「偽装管理職」が、外食やコンビニなどに広がっている。管理職は、労働基準法で残業代や休日手当の対象外とされる。ただ働きだから、経営側にとっては辞令一枚で

人件費抑制策になる▼日本マクドナルドの店長(46)が、それを違法だと訴えた。判決は主張を認め、会社側に残業代など約750万円の支払いを命じた。休日なし、残業137時間の月もあったそうだ。過労死が危ぶまれるライ

ンをとうに超えている▼胃袋と足が言い争うイソップの寓話(ぐうわ)がある。「うまいものは胃袋が食うが、俺(おれ)なしには動けやしない」と足が不平を鳴らす。胃袋の方は、「私が栄養をあげなければ、お前はくたばる」と

譲らない▼胃袋の言い分は、いまなら企業のそれに近い。せっせと働いて会社をもうけさせれば、おのずと栄養は社員にまわる。一方の理ではあろう。だが働く者の人間性を脅かすような偽装がはびこるようでは、その理もむなしい。

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2008-01-30(Wed)

コンピューターウイルス 余録

余録:コンピューターウイルス
 
人は欲と好奇心とが混じり合わさると警戒心を忘れるらしい。中国にはこんな話がある。険しい地形によって守られていた蜀(しょく)の王が、隣の秦(しん)に黄金の糞(ふん)をする5頭の石牛があるという話を聞く。それを

もらいたいと申し入れると、秦王は簡単に承知した▲蜀王は5人の力士を遣わし、苦労して石牛を蜀に運び入れたが、さっぱり黄金の糞などしない。そのうち秦の軍勢が石牛運搬のために作った道路から攻め込んで蜀を滅ぼしてしまっ

た。むろん作り話だろうが、中国版トロイの木馬である(金関丈夫著「木馬と石牛」岩波文庫)▲これがもとで後世、蜀に至る難所は石牛道や金牛道などと名づけられ、五丁関、金牛峡などの名も残った。人々はよほどこの教訓話に感

心したのだろうが、だからといって今なお人間がこの手の詐術にひっかかりにくくなったわけでもない▲先ごろ著作権法違反容疑で逮捕された大学院生が作成したコンピューターウイルスも人気アニメの動画ファイルを装い、またファ

イルの流出元を偽装して広めていた。人気動画を手軽に入手したい、一目見たいという好奇心が狙われたのだ▲このウイルスの場合はファイル交換ソフト「ウィニー」を介して感染を広げている。いったん感染すれば勝手な画像を表

示したり、ファイルを削除したり、個人情報を流出させたりといった乱暴を働くこと、石牛道から乱入した軍勢と同様だ▲メールによる大量配布よりサイトに誘い込んで感染させる悪知恵が目立つという昨今のウイルス事情だ。少なく

とも石牛の金の糞に類するあやしいソフト、うまい話のファイルにはまゆにつばをするのが自衛策の一つだろう。

毎日新聞 2008年1月30日 0時08分

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2008-01-30(Wed)

緊急避難 春秋(1/30)

春秋(1/30)
 
古代ギリシャの哲学者カルネアデスが示した有名な命題がある。水難で海に投げ出されたとき、1人しか乗れない舟板に取りすがるためには他の人を振り落としても許されるのか――。「カルネアデスの舟板」と称されるテーマである。

▼今でいう刑法の「緊急避難」だが、大昔から論争は尽きない。現行の日本の刑法はこう定めている。「やむを得ずした行為によって生じた害が、避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り罰しない」。平たく言えば、多少の荒事であっても破滅を招くよりはましならば目をつむりましょう、ということだ。

▼ガソリン税などの暫定税率期限を延長する「つなぎ法案」も、緊急避難のたぐいだろう。たしかに、このままだと4月にガソリンがしばし安くなっても大混乱が起きるのは必定。あえて奇手を繰り出すのも政権与党の務めかもしれない。とはいえ、昨夜の法案提出で国会の混迷がかえって深まりそうなのが心配だ。

▼そもそも、道路だけを聖域にして税金が流れ込む仕組みをいつまで続けるのか、道路財源の看板で妙なカネの使い方はしていないのか。国会でのきちんとした論戦を聞きたいのに、期待薄だ。緊急避難だからといって、そういう議論まで避けてはなるまい。緊急避難の行き過ぎを、刑法の世界では過剰避難と呼ぶ

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2008-01-30(Wed)

名ばかり店長 卓上四季(1月30日)

卓上四季
名ばかり店長(1月30日)

勤め人の話題に人事やポストは付き物だ。サラリーマン川柳に「責任はすり付け功はひとりじめ」。よくいるそんな上司は格好の酒のさかなとなる。昇進の順番がつかえて「二メートル先の椅子(いす)まで十五年」の現実もあろう

▼ポストを与える方も知恵を回す。古い時代の日本に「位倒(くらいだお)し」があった。名誉だけは役職に付けるが、実権や収入は伴わない。「官打(かんう)ち」は高等戦術だ。気に入らぬ相手に高すぎる位を与え、重圧や多

忙などでつぶしてしまう▼今の「名ばかり管理職」は、位倒しにも似ている。ただ、人を安く使う意図はもっと露骨だ。規制緩和が進む二十一世紀型か。マクドナルドの店長は管理職ではないと東京地裁が判断した▼勝訴した店長は百

時間以上も残業する月があった。しかし管理職では残業代が出ない。名目だけ管理職とされ、ただ働きを強要されては人権問題である▼管理職と認められる範囲は、法的にはそう広くない。経営者と一体の立場、出退社に厳しい制限が

ない、賃金で地位に見合う待遇を受ける、などだ。報道で知って「自分も違うのでは」と首をかしげた「役職者」もおられるのではないか▼外食産業などからは、これでは経営が成り立たないという声も聞こえる。まともな経営をしていない証しだろう。全国展開の企業が平気で値切るのでは、社会的責任を果たせない。人件費は「人権費」でもある。

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2008-01-29(Tue)

管理職 編集手帳1月29日付

1月29日付 編集手帳
 
財界人や学者からなる日本の使節団が米国を訪ねたのは1955年の秋である。ある製鉄会社を視察したとき、歓迎の席に副社長が10人も現れたので一同は目を丸くした◆経済学者の中山伊知郎氏が副社長職をたくさん置く理由を

尋ねたが、当人たちは微笑するのみで答えない。と、横合いから若い社員が口を挟んだ。「タイトル イズ チーパー ザン ダラー」(称号を与えるほうが安くつくので…)◆団員が書いた見聞録の一節にある。ジョークにしても、

なかなかいい度胸の社員である。日本マクドナルドの男性店長(46)が起こした「管理職」をめぐる裁判の判決に、そのくだりを思い浮かべた◆店長とは名ばかりで管理職の権限も待遇もなく、一般社員やアルバイトと同じように早

朝から深夜まで調理や接客をしている。管理職とみなして残業代を払わないのはおかしい◆その訴えを認め、東京地裁は未払いの残業代など755万円の支払いを会社に命じた。休日ゼロ、残業137時間の月もあったという。どの企

業、業界といわず、「管理職」がタダ働きをさせるための称号であってはなるまい◆半世紀前でさえ、半ばジョークに聞こえた“安くつく”裏技である。「タイトル イズ…」が日本にいまも生きていると聞けば、あの度胸のいい彼が今度は目を丸くする番だろう。

(2008年1月29日02時01分 読売新聞)

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2008-01-29(Tue)

魔物の棲(す)むところ 天声人語2008年01月29日(火曜日)付

天声人語
2008年01月29日(火曜日)付

 白日の下で行われるスポーツにも「魔物」の棲(す)むところがある。よく知られるのは高校野球の甲子園だろう。独特の雰囲気が球児をのみ込む。魔に魅入られたようなエラーや乱調に、幾人もが涙を流してきた▼マラソンでは3

0キロ過ぎに棲むといわれる。「30キロの壁」という言葉もある。日曜にあった大阪国際女子マラソンで、魔物は福士加代子選手にとりついた。快調に先頭を走っていたが、別人のように失速した。足を運ぶのもままならず何度も倒

れた▼並はずれた健脚を韋駄天(いだてん)と呼ぶ。仏法の守り神の名前だ。釈迦の遺骨を盗んだ鬼を追いかけて奪い返した俗説から、足の速い人の代名詞になった。福士選手はトラックでは名うての韋駄天だったが、初めて挑んだマ

ラソンで魔物の洗礼に沈んだ▼メキシコ五輪で銀メダルの君原健二さんによれば、30キロを過ぎての最終盤は「一歩一歩が血を吐く思い」だという。「だれがこんなむごいレースを考え出したのか」。憎みながら走ったものだと、著

書『マラソンの青春』で回想している▼立ち止まる誘惑と格闘しながら、「この先の電柱まで、あそこの家まで」ともがく。その積み重ねで、君原さんは参加した35回すべてを完走した。「走り抜く」ことを大切にした名選手である

▼福士選手もまた、転んでも転んでも起き上がって、走り抜いた。優勝者より大きな拍手は、悔しかっただろう。だが前をめざす凄(すご)みを、見る者に教えてくれた。いつの日か魔物を仇(あだ)討ちにする。その姿を見たいファンは少なくないはずだ。

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2008-01-29(Tue)

中東の笛 余録

余録:中東の笛
 
大昔、人は葦(あし)の切り口が風で鳴るのを聞いて笛を作ったといわれる。その音には人の耳を引きつける特別の力があったのに違いない。中東の「ナーイ」もそんな葦から作った笛である。葦の管に指孔(ゆびあな)をあ

け、鋭く切った管の口に息を吹きつけて鳴らす▲ちょうど日本の尺八と似ているが、ナーイの方は少し斜めに持ち、切り口の側面に唇をつけて演奏するのが違っている。演奏には息の音が伴うところも尺八と同じで、いわばアジアの西

と東の両極で同じような笛が残っていたのが面白い▲もっとも、この間の「中東の笛」はスポーツの根幹にかかわる不協和音の代名詞になってアジアを東西に分断した。審判のあからさまな中東寄り判定で試合結果がゆがめられたハン

ドボール北京五輪アジア予選である。そのやり直しが日本と韓国の間でいよいよきょうから始まる▲アジア・ハンドボール連盟(AHF)の実権を握るクウェートの王族の影響下、これまでもハンドボールでは不可解な判定で東アジア

勢が苦杯をなめてきた。審判が味方と分かっている試合に勝って何がそんなに面白いのかさっぱり分からないが、人の考えることはさまざまだ▲予選をやり直せばAHFは東京五輪招致を支持しないと日本に圧力をかけているという。

どうも車は横に押しても動かないというのが分からないらしい。ここは日韓両チームがスポーツマンシップの何たるかを世界に示す試合を見せてほしい▲おかげで日本ではマイナースポーツ扱いだったハンドボールの世界的人気や、ス

ピーディーなゲームの楽しさを多くの人が知った。笛の音が人の耳を引きつけるのも悪いことばかりではない。

毎日新聞 2008年1月29日 0時04分

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2008-01-29(Tue)

雪の結晶 春秋(1/29)

春秋(1/29)
 
茨城県の南西端にある古河(こが)市は雪国ではないのに雪の町だ。ほとんどの市立小中学校は雪の結晶を校章にし、JR駅前のモニュメントを「ゆきはな」、市の歴史博物館で買える土産品の便せんや首飾りを「雪華グッズ」と名付けている。

▼19世紀前半に、ここ古河藩の藩主だった土井(どい)利位(としつら)の業績をたたえてのことである。老中まで務めたこの有力大名は、舶来の顕微鏡を使って雪結晶を観察し図鑑『雪華(せっか)図(ず)説(せつ)』の正続二編を著した科学者でもあった。江戸時代の雪国の生活を描いた古典『北越雪譜』も、図鑑から結晶図の一部を引用、掲載している。

▼日本列島はこのところ寒さが続き、太平洋側でもあちこちで雪が降った。北海道、東北、北陸や山間部の豪雪地では、積雪が平年をだいぶ下回る場所が多いが、昨冬の異常な“温暖・寡雪”を考えれば、雪が降る冬らしい冬で、一安心だ。こう書くと、雪害に苦しむ地方の方々に、おしかりを受けるかもしれないが。

▼利位は雪の結晶を図案化した「雪華模様」を愛し、茶器や刀、巻紙など身の回りの品々を装飾した。やがて江戸の市中でも焼き物や着物の文様として流行し、利位の官名から大炊(おおい)模様と呼ばれたという。雪の中に「美」をも発見した殿様が、温暖化で雪が減る今の日本に生き返ったら、どんな感想をもらすだろうか。

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2008-01-29(Tue)

カレイの手紙 卓上四季(1月29日)

卓上四季
カレイの手紙(1月29日)

潜水具を着け海に入った。水面から三○センチも沈むだけで、きらきら光る銀色の小魚が群れている。岩場では、保護色をしたカサゴの仲間が赤っぽい海草そっくりに化けていた▼水深二○メートルほどまで来ると、太陽の輝きはも

はや心細い。眼下に闇が広がる。はるか深海に続いているのだ。千メートルあたりは真っ暗らしい。そのくらいの海底で取れたサメガレイの背中に、手紙がくっついているのが見つかった▼十四年あまり前、小学一年生が風船に結んで

飛ばした。川崎市の学校から発見された犬吠埼沖まで、百五十キロほど距離がある。赤い風船は風に乗り、青空を舞った後、海に落ち…それからどうなっていたのだろう▼カレイを水揚げした地元の漁協から、手紙が返された。当時の

一年生は、いま二十一歳の大学生だ。なつかしい記憶がよみがえり、うれしかったり驚いたりしたに違いない。「見つけた人にもカレイにも感謝します」と話した▼手紙には幼い字で「ひろったかたはおへんじをください」と書いてあ

る。だがまさか、カレイが届けてくれるなどとは思わなかったろう。竜宮城の郵便局にでも預けられていたのだろうか▼胸に手を当てれば、誰にも一年生のころがあった。大方の記憶は闇の底に沈んでいる。届けてくれる竜宮の使者もいないだろう。それでも海に行って波音でも聞けば、浮かび上がる思い出もあるのかもしれない。

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2008-01-28(Mon)

米大統領選 編集手帳1月28日付

1月28日付 編集手帳
 
「今年の米大統領選の見通しを語るのは実は、簡単なんですよ」。外務省高官がニヤリと笑う。「分からない、と言っておけば間違いない」◆確かに共和、民主両党の予備選は、ともに混戦が続く。候補者や支持者は熾烈(しれつ)

な戦いの渦中にいる。そこで思い出されるのは、8年前の大統領選で取材したボランティア運動員の政治参加意識の高さだ◆旅費も宿泊費も自己負担で他州の予備選に駆け付ける。戸別訪問や電話作戦に、黙々と従事する。選挙運動自

体に純粋な充足感を見いだす彼らの姿に、米国流の「草の根民主主義」の確かさを実感した◆候補者も有権者との対話集会を通じて経験を積み、磨かれる。当時のクリントン大統領はこう説いた。「選挙民の質問に答え、評価を受ける

ことが素晴らしい訓練となる」◆当時のブッシュ候補は当初、「外交音痴」と揶揄(やゆ)されていた。しかし、長丁場の選挙戦でもまれる中、政策面でも成長し、当選を果たした。政治家の成長は、有権者の厳しい視線があってこそ、

である◆日本では今、民主党が、次期衆院選をにらみ、ガソリン代値下げを通常国会の最大の争点に据えている。増税は一切せず、地方の道路整備水準も下げない、という。こんな大風呂敷が通用してしまうのは、政治家のせいか。あるいは有権者のせいと自省すべきなのか。

(2008年1月28日01時57分 読売新聞)

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2008-01-28(Mon)

大相撲千秋楽 天声人語2008年01月28日(月曜日)付

天声人語
2008年01月28日(月曜日)付

 ずいぶん盛大に座布団が舞ったものだ。きのうの大相撲の千秋楽、両横綱の相星決戦は白鵬に軍配が上がった。久々に堪能した相撲好きもいたことだろう。行儀の悪さを言われつつも、折々に舞う座布団は、ファンの正直な思いを

乗せている▼座布団ばかりではない。昭和の初めごろまでは、羽織を脱いで投げる人もいたそうだ。粋筋の女性客などは、帯揚げをほどいて投げた。相撲部屋の若い衆らが拾って持ち主に届け、ご祝儀をもらう習わしもあったと聞く▼

祝儀どころか、「金返せ」の声とともに座布団が飛んだのが、前回の九州場所である。千秋楽、優勝圏内にいた千代大海が突然休場した。負けても優勝と決まった白鵬は、気が抜けたのか結びの一番で転がされた。さえない幕切れへの

不満が、座布団に乗って舞った▼横綱の相星対決は5年半ぶりだった。力を絞ったがっぷり四つの末、白鵬が渾身(こんしん)の上手投げで朝青龍を仕留めた。白青どちらのファンも、きのうの座布団には「納得」の思いを乗せたので

はないか▼ファンに「叱(しか)られ」ても「怒られ」てはいけない。そんな意味の言葉を、横綱審議委員会委員長だった独文学者の高橋義孝さんが残している。叱ってくれるのは、根に愛情があるからだという▼手に汗握る大一番

で、朝青龍問題という「前門の虎」は何とか檻(おり)につないだ格好だ。だが若手力士の死亡事件という「後門の狼(おおかみ)」は、なお捜査が続く。ファンの「叱」が「怒」に変わる危うさを抱えたまま、日本相撲協会の厳しい綱渡りも当分は続く。

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2008-01-28(Mon)

オンリーワンの大阪目指せばいい 余録

余録:「オンリーワン」の大阪目指せばいい
 
大阪の都心を流れる堂島川のそばに小さな記念碑がある。稲穂を手に遊ぶ子供たちの銅像に「堂島米市場跡」との碑文が添えられている。高速道路の高架下で人目を引かず、ここが世界的な金融システムとなった先物取引の発祥地と

知る人は少ない▲「天下の台所」といわれた江戸期、周りには諸藩の蔵屋敷が並び、全国の米価格はここの米市場で決まった。1730年に幕府公認の取引所になり、世界最大のシカゴ商品取引所より100年以上も早い。先物の売買

や「デリバティブ(金融派生商品)」も大阪商人がつくりあげたシステムだ▲井原西鶴の「始末・才覚・算用」という言葉で表される大阪商法は、近江商人の努力によって磨かれ、東京へと広がる。大風呂敷を広げれば、創意工夫に満

ちた金銭哲学が大阪からグローバル化していったといえなくもない▲世界経済は同時株安の危機に直面し、スイスで開かれた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では深刻な論議が交わされた。福田康夫首相は「21世紀型の

危機」と位置づけ、各国が協調して対処するように呼びかけたが、打開への道は多難だ▲一方の大阪では経済の地盤沈下に歯止めがかからない。大阪人は政治感覚にうとく、目先の利益にこだわりすぎると言われ続けてきた。だが、今

や低成長の経済社会を生き抜く知恵や構想力こそが求められているのかもしれない▲東京の一極集中にとらわれず、先進的な「オンリーワン」の大阪を目指せばいい。持ち前の才覚を発揮すれば、確かな未来が切り開かれる。稲穂を持った子供たちの銅像を見て、新しい大阪府知事にそんな希望を託したくなった。

毎日新聞 2008年1月28日 0時09分

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2008-01-28(Mon)

BRICs 春秋(1/28)

春秋(1/28)
 
「BRICs」という呼び名は、すっかり耳になじんだ。ブラジル、ロシア、インド、中国。4カ国の頭文字を組み合わせた造語は、発音の歯切れも良い。「ブリックス!」。声に出してみると、なんとなく景気がいい気分すらしてくる。

▼これが「ブリークス」だったらどうだろう。ピリッとした感じが薄れ、ゆるんだゴムが頭に浮かぶ。もし歴史がほんの1文字分、違った動きをしていれば、今ごろ新興国の代名詞はIが1つ多い「BRIICs」だったかもしれない。2つめのIはインドネシアだ。OECDは95年の報告書で、同国を「次の経済大国」と称賛していた。

▼その“幻の大国”を30年以上率いたスハルト元大統領が亡くなった。94年にAPEC議長として自由貿易の「ボゴール宣言」を高らかにうたい上げた「開発の父」。97年のアジア通貨危機にくじけ、仁王立ちのIMF専務理事の前にひれ伏して政治改革を約束した「独裁者」。どちらも同氏の真実の顔である。

▼指導者を評価する歴史の秤(はかり)は、功と罪のどちらに傾くか。資源にも人口にも恵まれたインドネシアだが、経済力はBRICs4カ国と同格とはいえない。岐路がスハルト時代にあったのは確かだろう。人が代わり、時代が変わる。1度こぼれ落ちた1文字のI。その踏ん張りに期待したい。

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2008-01-28(Mon)

しゃべりまくれ 卓上四季 (1月28日)

卓上四季
しゃべりまくれ(1月28日)

民主党の菅さんや鳩山さんはさぞ困惑しているのでないか。代表の小沢さんのことだ。永田町では珍しいタイプだ。あまりしゃべらないし、批判されるのを恐れない。だからというべきか、でもというべきか、もう二十年以上も、表

であれ裏であれ、キーマンであり続けてきた▼始まった通常国会では、福田さんへの代表質問にまたも立たなかった。その前には、新テロ特措法を再議決する衆院本会議を選挙応援のために退席した。異例の事態に、鳩山さんが釈明し

ていた▼民主党が対決姿勢を打ち出した法案の決戦場に肝心の大将がいない。それでは党内の士気にかかわる。国民にどう映るかと考えるのがふつうである。だがご本人は「結果は目に見えていた」。どこが悪い?という風情だ▼せ

っかく参院選で勝ったのに、衆院選も勝たなければ何もならないと、てこ入れに走る小沢さんの判断は分からぬでもない。だが、国民は党首の言動に目を凝らしている▼首相になるかもしれない人だ。説明責任が求められる。KY(空

気を読めない)では困るのだ。良くも悪くもみんなで「わいわい」やってきた民主党。トップにもの申せないなら周りも情けない▼「沈黙が、何の意見を 表明したことにも ならない事も知ってゐるから−。私はしゃべる」(小熊秀雄「しゃべり捲(まく)れ」)。ダボス会議へも出かけて大いにしゃべってほしかった。

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2008-01-25(Fri)

御木本幸吉 編集手帳1月25日付

1月25日付 編集手帳
 
 明治天皇が三重県を旅した折、宇治山田町(現伊勢市)で土地の名士を招いて話を聴いた。1905年(明治38年)の晩秋、真円真珠の養殖に成功して間もない47歳の御木本幸吉もいた◆天皇の前で述べた言葉を御木本は後年、

ひとつ話にして語った。「世界じゅうの女の首を真珠でしめてごらんにいれます」。後ろから知事があわてて服を引っ張ったという◆食品業を営む家に生まれたのは1858年(安政5年)1月25日、きょうは生誕150年にあた

る。奔放な野人のようでいて、消費者の心を読むことにも長(た)けていたらしい◆昭和の初め、衆人環視のもとで粗悪品の真珠、約140キロを焼却し、「真珠の火葬」と話題を呼んだ。時価5万円、背広1着が15円で買えたころ

である。上質の品のみ販売することを消費者に伝え、損をして信頼という元を取った◆「芭蕉は歩いてあれだけの棒杭(ぼうぐい)(句碑)を建てとる。電車を使う貴様は芭蕉の30人前はやれ」と、高浜虚子を叱咤(しった)した人であ

る。売れ残り商品の火葬などに思いも及ばず、表示偽装に走った当節の経営者は「真珠王」からどんな罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びたか分からない◆96歳で亡くなった。「死んだら神様になって、世界じゅうからドルの賽銭(さいせん)を取ってやる」と語ったこともある。取っているかも知れないな、と思わせる人である。

(2008年1月25日01時42分 読売新聞)

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2008-01-25(Fri)

真珠 2008年01月25日(金曜日)付

天声人語
2008年01月25日(金曜日)付

 人魚の涙にも例えられる真珠は古来、偶然の恵みだった。珠(たま)を抱いた貝は珍しく、つまり人魚はめったに泣かない。それが20世紀に入り、彼女はめっきり涙もろくなった。水産業と宝飾業の十字路にこぼれ出た、養殖真珠

である▼アコヤ貝などの体内に異物を入れると、それを核にカルシウムとたんぱく質の層が交互に積み重なっていく。人が泣かせた涙の粒だが、天然の真珠と同じく歳月だけが大きくする▼世界初の養殖ビジネスで成功した御木本幸吉

(みきもと・こうきち)は、外遊のたび事業をこう説明した。「貝をだまし、月の涙のような真珠質を分泌させる。お陰で世界旅行ができますのじゃ」。幸吉の大言壮語は、しかし商才と努力に裏打ちされていた。きょうが生誕150

年にあたる▼「真珠王」には逸話が多い。明治天皇に発したと本人が言う「世界中の女の首を、真珠でしめてご覧にいれます」の言葉は伝説だ。昭和初めの訪米ではエジソンに会った。80歳の発明王は「ダイヤと真珠だけは作れなか

った」と驚いたという▼銀座のミキモト本店で、大正期のカタログを拝見した。日本初のネックレスは、多くの首を「しめた」ことだろう。型破りの創業者と、繊細な商品。日本の産業を飛躍させた取り合わせである▼日本経済が揺

るぎない地位を固めるにつれ、粗野だが進取の活力にあふれた起業家は天然真珠の珍しさになった。どの業界も、無難を旨とする経営者が多い。幸吉の先の言葉も今では「世界中の女性の首を真珠で飾ってみせます」と、より丸く伝えられている。

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2008-01-25(Fri)

ネット世界  余録

余録:ネット世界
 
 中国の「列子」に人使いの荒い金持ちに酷使される召使の話がある。昼間よく働く召使はいつも夜ぐっすり眠り、王になって好きなことをする夢を見た。一方、金持ちは昼は世事に追われ、夜はいつも自分が人の召使になってこき使

われる夢を見る▲「人の一生は昼が半分、夜が半分。何もうらむことはない」は召使の言葉だ。ただできることなら召使も、夜の夢の世界の富を少しぐらいは昼の現実に持ち込みたかったろう。逆に金持ちはあり余る財産を夢の世界で

も使いたかったに違いない▲こと現代では、昼はふつうの学生やサラリーマンが、夜になると伝説の英雄やビジネスヒーローに変身できる。それがインターネットのオンラインゲームである。そこはゲーム内で物を売り買いするための

独自の通貨まで備えた仮想世界だ▲そんなゲーム内通貨(ポイント)約3600万円分を他人のIDなどで不正入手していたとして16歳の少年が電子計算機使用詐欺などの容疑で逮捕された。少年はポイントの一部を電子マネーに交

換し、50万円分の現実の買い物をしていた。夜の世界の富を昼に移し入れたのだ▲ネットオークションや専門業者を介したゲームの仮想通貨の売買は年間100億円以上の規模で繰り広げられているといわれる。逮捕された少年が入

り込んだのは、人の欲望が仮想と現実の垣根を軽々と越えて富をやりとりする世界だった▲時を同じくしてコンピューターウイルスを作成・配布したとして大学院生の逮捕が報じられた。人々の欲望を仕切ってきた境界が次々に消えていくネットの世界だ。それにふさわしいモラルとルールを私たちはまだ手にしていない。

毎日新聞 2008年1月25日 0時03分 (最終更新時間 1月25日 1時03分)

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2008-01-25(Fri)

グリーンスパン  春秋(1/25)

春秋(1/25)
 
  米連邦準備理事会(FRB)の高官らしい曖昧(あいまい)な話し方をするのでグリーンスパン前議長の妻は「3度目のプロポーズで初めて意味がわかった」。でも、それは妻の間違いで「実際には5回目だった」という冗談が「私の履歴書」にあった。

▼一昨年、80歳直前に重責を離れ発言も大胆になったが、在任中は徹底した曖昧模糊(あいまいもこ)が身上だった。金利を上げるのか、下げるのか、強気なのか弱気なのか、徹底して予防線を張るのでマスコミの理解も混乱した。これはグリーンスパンの専売特許ではなくフェド・スピーク(FRB的話法)というものだという。

▼議長就任当時、グリーンスパン氏も独特の用語に戸惑ったと自伝『波乱の時代』に書いている。「必要だと判断した場合に金利を上げてもいい」というふつうの表現は使わず「引き締め方向の非対称的政策運営方針を決議する」というのだそうだ。スタッフに「英語はどうなってしまったのか」とからかっている。

▼FRBの金利引き下げに、日銀の福井俊彦総裁は「基本的スタンスは変わりない」と言う一方で、マイナス要因をあげて次第に判じ物めく。結局「微妙な局面」と解釈はどちらにも取れるフェド方式となる。サブプライムローン問題の闇は深く、日銀総裁人事も不透明だが、金融政策の舵(かじ)取りに曖昧は許されない。

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2008-01-25(Fri)

シャボン玉  卓上四季(1月25日)

卓上四季
シャボン玉(1月25日)

 童謡「シャボン玉」には切ない陰がある。二番の歌詞に「シャボン玉消えた/飛ばずに消えた/生まれてすぐに/こわれて消えた」▼詩を書いたのは野口雨情だ。雨情は札幌で新聞記者をしていたころ、生後間もない娘を亡くしてい

る。その悲しみが、後に「シャボン玉」の詩に結晶したとされる。はかない虹の玉は、みどりごの短い命であった▼大阪・守口の強盗殺人事件で犠牲になったのは、生後十八日の乳児だった。わずかな粘着テープでも、か弱い命を奪う

凶器になる。母親の山中いづみさんの証言では、犯人は泣きだす礼弥ちゃんの口をふさぎ、いづみさんを縛った。数万円ほどの金のための、悪びれぬ犯行だ▼子の後を追うように、いづみさんは飛び降りて死亡した。「子供がいなくて

さびしい」「死を選ぶのがわたしの幸せと思ってください」といったメモを残していた▼母といってもまだ二十二歳、春には礼弥ちゃんの父親と結婚する予定だった。本来なら、虹色に明るく輝く幸せな瞬間が待っていたことだろう。

屋根の上まで飛べなかった二つのシャボン玉に胸が痛む▼雨情の作に「七つの子」もある。カラスなぜ鳴くの。山に子があるからよ。カラスは「かわいいかわいい」と鳴く。雨情はこの詩を「丸い目をしたいい子だよ」と結んだ。死を選んだ母にも、礼弥ちゃんは命に代えがたい、かわいい子だったに違いない。

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2008-01-24(Thu)

スルメイカ豊漁 卓上四季(1月24日)

卓上四季
スルメイカ豊漁(1月24日)

スルメに「当たりめ」の別名がある。「する」は「摩(す)る」(金を失う)に通じる。これを嫌って、商売が「当たる」よう言い換えた▼スルメイカは干物もおいしいが、煮ても焼いてもいい。天ぷらも松前漬けもイカ飯もうま

い。柔らかな甘みを楽しむには、やはり刺し身が一番か。しょうゆに、ショウガかワサビ、それに熱々のご飯。のどが鳴る▼俳句でイカは夏の季語だ。函館で詠んだ句に〈立待(たちまち)の岬(さき)より烏賊火(いかび)ちりばめ

し〉(寺嶋青風)。スルメイカ漁の最盛期は、普通は夏から秋である。だが函館近海でいま、季節はずれの豊漁が続いている▼昨年十二月は、前年の三倍もとれた漁協もあった。新鮮な活イカを朝市などで食べられるため、観光客は喜

んでいる。価格が下がって漁家の収入は伸びていない。寒い中、気の毒なことだ▼スルメイカの寿命は一年ほどしかない。水が温かくなると北に移動する。冷たくなると南に戻る。昨夏は水温が高かったため、早いうちに北へ向かっ

た。遠くまで行ったらしい。戻るのも遅れ、今の時期に豊漁となったようだ▼自然現象には変化が付きものだ。何でもすぐに地球温暖化と結びつけるのは早計だろう。だが温暖化との関係を否定もしにくい。水温が上昇すれば、産卵期が遅れ、漁の最盛期が冬にずれる可能性があるとみる専門家もいる。こうした懸念は「当たり」にならない方がよかろう。

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2008-01-24(Thu)

武玉川 編集手帳1月24日付

1月24日付 編集手帳
 
生まれたばかりの赤ちゃんも一人前のあくびをする。「みどり子の欠伸(あくび)の口の美しき」。江戸中期の雑俳集「武玉川(むたまがわ)」の一句にある◆作家の田辺聖子さんは「武玉川・とくとく清水」(岩波新書)に書いてい

る。みどり子のあくびの「小癪(こしゃく)な愛らしさに、大人は魂が天外に飛ぶ心地がする」と。憎まれ口をきくようになっても親は、「かわいいあくびをしていたあの口が今では…」と、歳月に感謝の手を合わせるのだろう◆みどり

子のその口を、である。今月16日、大阪府守口市で起きた強盗事件はむごい。母親の山中いづみさん(22)が警察に語ったところでは、侵入した男はいづみさんを縛り上げ、泣き出した生後18日の長男礼弥(れいや)ちゃんの口

を粘着テープでふさいで殺したという◆1週間後のきのう、大阪市内の路上でいづみさんが死亡した。歩道橋から飛び降り自殺を図り、車にはねられたと見られている。いづみさんは礼弥ちゃんの父親である大学4年生の男性(22)

と今春、挙式の予定であったという。子と母と、そして残された父と、何とも痛ましい事件である◆あくびをし、泣き、笑い、食べて飲み、やがて数限りない言葉を話した小さな口である。この世に生を受けてわずか18日の命を、目覚まし時計のベルを切るように平然と、粘着テープで切った者がいる◆おまえは誰だ。

(2008年1月24日01時53分 読売新聞)

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2008-01-24(Thu)

涙雪 天声人語2008年01月24日(木曜日)付

天声人語
2008年01月24日(木曜日)付

 「涙雪」というのだろうか。この冬初めて都心が白く染まった昨日、日本橋の証券街を歩いた。株価は少し戻したが、電光ボードを見る人は少ない。弁当売りが歩道に青いパラソルを広げている。どれも390円と、こちらは温かい

「安値安定」だ▼世界同時株安の中、日経平均は昨夏のピークから3割ほど下げた。資産家の鳩山法相は「40億円損したのではないかといわれている」と、額の割にはのんきに語る。兄の民主党幹事長と「兄弟同時損害」だとい

う。その万分の一でも、持ち株の評価損は消費者の心を重くする▼住宅ローンの焦げつきに発した米国の不始末で、世界経済の体温がズルズルと下がっている状況だ。米政府による景気対策の発表、大幅な利下げにも、市場の反応は鈍

い▼無敵の軍を思うがままに動かし、地球環境にはさほどの関心もなく、貿易赤字はそのままに「借金」で石油がぶ飲みの消費ざんまい。もっぱら為政者の責任だが、米国のありようが問われているかに見える。この国が仕切る世界

も、長くはないのか▼日本の冬景色に目を転じる。深刻なのは、株には縁遠い貧困層の生活だ。食品や灯油の値上げは、余裕のない家計を狙い撃つ。金満大臣の軽口、首相のすました物言いを聞くにつけ、国民生活を守る緊張感がどれ

ほどありやと気が沈む▼きのうの東京は今冬一番の冷え込みだった。証券街の地下通路で、紙袋を枕にして男性が丸まっていた。国際経済の曇り空の下で、10円にこだわる生身の暮らしが凍えていることに心したい。

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2008-01-24(Thu)

ねんきん特別便 余録

余録:ねんきん特別便
 
無愛想で冷淡な応対を「木で鼻をくくる」という。以前から木で人の鼻をしばるとは何のことなのかと疑問だったが、「くくる」は「こくる」=「こする」なのだという。つまりは木で鼻をふかせるような、いいかげんなあしらい

を示すようである▲では鼻汁が出ている人の前に木切れを置いておけばどうなるか。なかには木で鼻をぬぐう人もいよう。だが、そんなことは夢にも思いつかぬ人も多いだろう。いずれであれ確かなことは、そんな“実験”が被験者に

知らせずに行われたと分かれば、ほとんどの人が怒り出すことだ▲さて宙に浮いた年金記録5000万件の確認のために送られてくる「ねんきん特別便」の話だ。その内容があまりに分かりにくく不親切、木で鼻をくくったようだとの

評判を受け、見本や注意書きをつけたものが再発送されることになった▲というのも、これまでの特別便への回答率は3分の1程度にとどまり、記録回復ができたのはその1割強にとどまっているからだ。しかも「訂正なし」と回答し

てきた人のなかに記録漏れの持ち主にほぼ間違いないと見られる人も多数いた▲「それが分かっているならはなから教えろ」とどなりたくなるのは、まるで木切れをあてがわれて鼻をふくかどうかを観察されていた被験者のような国民

だ。今度は木切れで鼻をふく時の注意書きを送るからといわれても別にうれしくない▲再送は103万人分というが、この試行錯誤の費用も国民持ちだ。実験などせずともふつう人が木で鼻をふかないのは誰でも知っている。それが分からなかったのは、困っている人に何が必要なのかなどと夢にも考えない役人だけだ。

毎日新聞 2008年1月24日 0時09分

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2008-01-24(Thu)

土佐日記 春秋(1/24)

春秋(1/24)
 
「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり」。この書き出しで知られる「土佐日記」は平安時代半ばの成立だ。ご案内のとおり作者の紀貫之は女性のふりをして、土佐から京までの旅路と胸のうちをつづってみせた。

▼それまでは日記といえば男性が漢文で書く堅苦しいものだった。しかし貫之は女性の間に普及してきた平仮名で心のアヤを自在に表現してみたくなり、あえて女に化けたようだ。この作品が平仮名文化を花開かせるきっかけを作り、日本語はずっと豊かになった。今も平仮名には柔和で分かりやすい雰囲気が漂う。

▼「ねんきん特別便」なるネーミングも、そういう伝統の所産だろうか。宙に浮いた年金記録の持ち主とおぼしき人に社会保険庁が送り付ける書信だ。ところが、かみくだいて表してみたのは名前だけらしい。もらったはいいが、どんな記録が漏れているのかさっぱり見当がつかない。途方に暮れる人が全国にいる。

▼ヒントは何も記されていないし、問い合わせても教えてくれない。不正受給を防ぐためとはいっても、これではあんまりだ。社保庁は結局、70万通を送り直すという。「悔しいことが多いけれど、もう破り捨ててしまおう」と土佐日記の結びにある。特別便を受け取った人を、そんな気持ちにさせてはなるまい。

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2008-01-23(Wed)

藤倉修一 編集手帳1月23日付

1月23日付 編集手帳
 
観客を入れず、非公開で催された大相撲の本場所が一度だけある。終戦の2か月前、旧両国国技館での夏場所は国内が平静であることを海外に宣伝する興行だった◆ラジオの実況はNHKのアナウンサー、藤倉修一さんが担当した。

海外向けの放送で国内に聴く人はいない。のちに著書の中で、がらんとした館内で口角泡を飛ばしてしゃべっていた自分を「悲しいピエロ」にたとえている◆世間不在の実況がラジオの冬ならば、世間の声を電波に乗せた「街頭録音」

は春一番であったろう。第1回は終戦翌年6月、これも藤倉さんである。「ガード下の娘たち」の回は、NHKの「アナウンサーたちの70年」(講談社)に会話の一部が載っている◆藤倉「サツ(警察)へ何回挙げられたの?」。女

B「私は七回」。女C「何、ひもぶらさげてんの?」。藤倉「いや、これ…」。女A「結(ゆ)わえていくんじゃないでしょうね」。藤倉「結わえていかない」◆荒れた世相をしのばせるが、ありのままを伝えることのできる開

放感も行間ににじみ出ている。藤倉さんの訃報(ふほう)に接した。93歳という。冬の霙(みぞれ)と、春の陽光と、季節の変わり目をマイクと共に歩いた人である◆この原稿を書いている机の横にテレビが置いてある。初場所の館内が映っている。観客のいる、あたりまえの光景に目を留める。

(2008年1月23日02時06分 読売新聞)

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2008-01-23(Wed)

片岡球子 天声人語2008年01月23日(水曜日)付

天声人語
2008年01月23日(水曜日)付

 103歳で亡くなった日本画家の片岡球子(たまこ)さんは、浮世絵師の渓斎英泉(けいさい・えいせん)を描いている。自作の美人画に囲まれ、遊び慣れた風にくつろぐ英泉。原色しま模様の弛(たる)んだ着物に、右手でつまむ

白杯の硬さが浮き上がる。86歳の作とは思えぬ軽快さだ▼若い頃は帝展や院展によく落ちた。「落選の神様」と呼ばれた当時を、後に女子美術大学の後輩たちに語っている。「展覧会が近づくと、みんな私を避けて通るんだよ。ほん

と悔しかった。負けないぞと思ったね」(奥岡茂雄『片岡球子・個性(こころ)の旅路』)▼歴史上の人物の「面構(つらがまえ)」シリーズは還暦後だ。時にユーモラスに描く武将や高僧、絵師らの顔は、歴史の教科書で見るよ

り人間くさい。この人なら今の世をどう考え、動いたかと夢想して筆を運んだそうだ▼奔放な画風が地位を得た頃、最晩年の横山大観からの「助言」が興味深い。酒豪の大観は、杯を右手のつめで弾(はじ)きつつ片岡さんに話したと

いう。「この音が描けなければ一人前じゃない」▼だから、人も山も内面に踏み込んで向き合った。そうして描いた杯を弾けば、心で陶器が鳴る。「私の富士山は理想の山じゃなく、いつも生きている山。変な形になればなるほどいい

んです」は95歳の言である。「暴れ回るように描きたい」と、最後まで時代に媚(こ)びなかった▼折しも本日、大観の没後50年展が東京で開幕する。大家を通した大観と、遅咲きながら長く香った片岡さん。ともに日本の伝統絵画を前に進めた。「面構」の主たちを交えて、天寿の杯を交わす頃か。

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2008-01-23(Wed)

世界同時株安 余録

余録:世界同時株安
 
ウォール街入り口にあるトリニティー教会は、ゴシック様式のニューヨーク最古の教会だ。宗派は英国国教会だが、そこにプロテスタント各派やカトリック、ユダヤ教徒までが祈りに詰めかけたのは1929年の株価大暴落の際だ▲

暗黒の木曜日に続く翌週の火曜日、相場の崩壊が明らかになったその時だ。ウォール街の人々は宗派を超え、そこが祈りの場だというだけで終日教会を埋めた。富への熱狂からさめ、初めて人々の心に神がよみがえったのだろうか

(G・トマスほか「アメリカの死んだ日」)▲しゃべる言葉、食べる料理、そして信じる神の違いを超えて人々を突き動かし、その運命を根こそぎ巻き込んでいく市場の力学である。それは現代のグローバル経済にあって、たとえば世

界の株式市場の株価の連鎖的な変調となって表れる▲米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)問題による信用不安と景気懸念で各地の株価が急落し、世界同時株安の様相を見せている。22日の東京市場は日経平均で1

万3000円を割り込み、前日比750円以上値下がりした▲この日は中国の大手銀行のサブプライム問題による損失懸念が広がり、上海や香港株も大幅に続落した。また中国とともに年初から株高だったインドの市場もここにきての

急落だ。世界の投資家は祈るよりも先に株式市場から逃避し始めたのか▲同時株安のきっかけは先週の米政府の緊急経済対策の甘さへの市場の失望だった。人々が信ずる神は違っても、世界を覆う不安や不信の根源は共通である。米国

は日本のバブルの経験も踏まえ、サブプライム問題への劇的な対策を示すときではないか。

毎日新聞 2008年1月23日 0時07分

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2008-01-23(Wed)

ガソリン国会 春秋(1/23)

春秋(1/23)
 
日本プロ野球史上最多の949試合に登板した米田哲也投手はとにかく投げ続けた。弱くて人気もない「灰色のチーム」時代の阪急に入った最初のシーズンから毎年50試合前後に出ている。「エースは酷使」が当たり前のころにしても驚異の働きぶりだ。

▼ついた異名が、ガソリンタンク。米田投手が全盛の昭和30年代、ガソリンは活力源の代名詞だったのだ。「ガソリンを入れる=活動の原動力を補給する。多く、酒を飲んで元気をつけること」(『大辞泉』)。今ではほとんど聞かれないこんな言葉の使い方も、そのころはよくしていた。

▼「ガソリン国会」が始まった。活力あふれる国会の意味では、残念ながら、ない。3月末に期限が切れる租税特別措置法の改正案をつぶしてガソリンの税金・値段を引き下げると国民にアピールし、つぶせなければ参院で首相問責決議を通し衆院解散を迫る――そういう国会に、との民主党の狙いから名付けられた。

▼国の予算が執行できない心配と、解散の可能性を背負った緊迫感から審議が真剣味を増す効果は期待したいが、国会が与野党の政争に陥って何も決められず、揚げ句に国民生活が混乱する事態は困る。『大辞泉』にある「ガソリンが切れる=活動の原動力がなくなる」状態の「ガソリン国会」になってはいけない。

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2008-01-23(Wed)

京都の約束 卓上四季(1月23日)

卓上四季
京都の約束(1月23日)

万葉の時代、恋人同士で着物を交換する風習があったそうだ。衣服には魂が宿る。取り換えて魂を相手に預けるのだ。もし返されたら絶縁の印になる▼このころの言葉に「商変(あきかえ)し」がある。徳政令に似て、貸し借りや売

買を取り消す。無粋な言葉だが恋歌はできる。〈商変ししらすとの御法(みのり)あらばこそ わが下衣(したごろも)返し賜(たば)らめ〉。商変しを認める法令があるなら、衣を返してくださって結構です。でもおあいにくさま、

それがないからお別れしませんよ▼冗談めかして相手の心変わりをけん制する。千二百年前の歌だ。恋の駆け引きはともかく、この歌で「徳政の起源の古いことがわかる」と折口信夫(しのぶ)が指摘している▼そんな万葉以来の伝

統にならったのでもあるまい。だが借金の帳消しを求めるのと変わらない。温室効果ガスの排出量を削減する基準年の見直しを、政府が検討しているという▼京都議定書では、一九九○年の排出量を基準に、何%削減するかを定めた。

新たな枠組みで、政府は二○○○年を基準にしたいようだ。この十年間で、日本は一割、米国は二割も排出量が増えている。それなのに増えないのと同じになる▼温暖化を防ぐという地球への約束はほとんど果たされていない。それで

「借金」棒引きを決めていいのか。京都で誓ったのに洞爺湖で別れを告げる。できる話ではない。おあいにくさま、と恋人の声が聞こえる。

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2008-01-22(Tue)

片岡球子 編集手帳1月22日付

1月22日付 編集手帳
 
明治の半ば、東京・谷中に美術家の団体「日本美術院」を設立した岡倉天心は院の歌を残している。「谷中うぐいす初音の血に染む紅梅花(こうばいか)堂々男子は死んでもよい」◆画家や工芸家が積み重ねる研鑽(けんさん)を命

がけで鳴くウグイスの初音に、生み出される美を寒夜ひらく梅の花にたとえ、美術とは男子一生の仕事であると宣言したのだろう◆文化勲章受章者の日本画家、片岡球子(たまこ)さんが103歳で亡くなった。仕事場に院歌の額を飾

っていたという。若いころは個性ある画風を“ゲテモノ”扱いされ、落選を繰り返す憂き目を見た人は、「堂々女子は…」と読み替えて開花前の寒夜を耐えたのかも知れない◆札幌市に生まれ、東京の美術学校に進んだ。卒業すると

き、「入選まで帰らぬ」と実家に電報を打ち、画布に向かった。郷里で用意された縁談は壊れ、勘当同然の身となる。生涯を独身で通した◆30年間、小学校の教壇に立ち、夜に絵筆をとった。服を着たまま、ごろりと横になる。普通

に眠ったのは風邪をひいたときだけという。血を吐くような初音の辛酸は後年、雄渾(ゆうこん)にして装飾性をも備えた独自の人物画、風景画に花ひらいた◆雪もよいの空の下でいま、梅の蕾(つぼみ)がふくらんでいる。人は季節を選んで逝くのではないが、紅梅のようなその人との別れに似つかわしく思えてならない。

(2008年1月22日01時40分 読売新聞)

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