2008-02-29(Fri)

赤塚不二夫 編集手帳2月29日付

2月29日付 編集手帳
 
赤塚不二夫さんは小学館「週刊少年サンデー」の連載「おそ松くん」で花ひらいた。サンデー育ちのその人を講談社「週刊少年マガジン」が2年がかりで口説き落とし、始めた連載が「天才バカボン」である◆サンデー側の衝撃は深

く、当時赤塚番の編集者、武居俊樹さんは自著のなかで映画の題名になぞらえ、「死刑台のエレベーター」に乗った心境だったと回想している(文芸春秋「赤塚不二夫のことを書いたのだ!!」)◆2年後、サンデーはマガジンから

「天才バカボン」を丸ごと引き抜く荒業でしっぺ返しをする。1959年(昭和34年)3月17日――と、創刊日も一緒の両誌が幾度となく散らせた火花のひとこまである◆長くライバル関係にあったその両誌が創刊50年を記念

し、合同で社の枠を超えた新雑誌を発行するという。月2回、半年間限定の試みである◆ゲームやインターネットなどで子供の娯楽が多様化し、両誌ともに部数は最盛期の半分以下に減っている。合同の新雑誌には、手を携えて読者の

関心を引きつける狙いもあるとみられる◆「しっかりしないと、テキ(他誌)にコテンパンにやられるよ」。育てた人気漫画家を引き抜かれたとき、武居さんはある人にそう忠告されたという。いつしか時は移り、いまは「漫画離れ」という他誌よりも厄介なテキがいる。

(2008年2月29日01時35分 読売新聞)

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2008-02-29(Fri)

閏(うるう)の日 天声人語2008年02月29日(金曜日)付

天声人語
2008年02月29日(金曜日)付

 地球が太陽の周りを回りきるには、365日と6時間弱かかる。端数が4年分たまって「きょう」になる。1日もうけたと思える人は充実した毎日を送っているのだろう。積み立て満期のような閏(うるう)の日に顧みる2月の言葉

から▼橋下徹大阪府知事が初登庁。「大阪は破産状態。民間なら給料が半分に減るなんて当たり前」「僕と一緒に死んでもらう覚悟で、最後は死んで下さい」と、テレビ出演の乗りだった。幹部職員は「いきなり死ねと言われても」

▼川崎市は、40年近い歴史がある公害部を環境対策部に再編する組織がえを発表した。公害認定患者の男性は「イメージばかりきれいになるが、市民が吸う空気はきれいになっていない」▼司法判断に従わず、日教組の教研集会に会

場を貸さなかったグランドプリンスホテル新高輪に、東工大の橋爪大三郎教授が喝。「いったん約束したら、体を張っても客を守るのがホテルの責任……近所の迷惑とかと言い始める江戸時代の発想では困るのだ」▼瀬戸内の島々から

なる愛媛県上島町の地域フォーラムで、お年寄りを訪ね歩いた女子高生が報告した。「おばあさんから『長生きの秘訣(ひけつ)はウソをつかないことと、人の話をあまり聞かないこと』と教えてもらいました」▼目の不自由な人が耳

で楽しむ録音図書。福島で音訳を手伝うフリーアナウンサー、馬場二三子さんは「ラジオと違って淡々と読むのがとても難しかった」。小欄を朗読して下さる方もいる。筆者も何度か拝聴したが、文章は声に乗って味を増すと知った。

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2008-02-29(Fri)

うるう年 余録

余録:うるう年
 
1288年、スコットランドのマーガレット女王は少し風変わりな法令を布告した。その統治中、未婚の娘はうるう年ごとに誰でも好きな男性に求婚できる、相手の男性が拒めば1ポンドの罰金を払うか、絹のガウンを女性に与えね

ばならないというのだ▲そうした慣習はかなり古くからあったらしいが、罰金を科せられる男たちの反発のせいだろうか、後に2月のうるう日だけの習慣になった。同じような法はフランスにもあり、15世紀のジェノバやフィレンツ

ェでも慣習になっていたそうだ▲昔の人もふだんの男性優位の習慣から跳び出たこのうるう年、英語ではリープ・イヤー(跳躍の年)だ。普通の年の月曜の日は翌年には火曜になるが、うるう年の次の年は同じ日が水曜に跳ぶからとい

う(ブルーワー英語故事成語大辞典)▲宇宙の摂理に厳密に従う天体の動きと、人間の都合で作られた暦の間のズレを跳び越えるうるう年である。きょうはその跳躍の日だが、宇宙の摂理を極めることで未知の惑星の存在を予測して

みせた人間の知の跳躍のニュースも届いている▲神戸大の研究チームの理論予測は、太陽系の外縁に9番目の未知の惑星が存在するはずだというものだ。太陽から平均225億キロ離れた楕円(だえん)軌道で、質量は地球の0.3〜

0.7倍、大きさはほぼ同じという。予測は40億年の太陽系の歴史をシミュレーションして得られたものだ▲理論が正しく、観測が進めば、10年以内に新惑星発見の可能性が高い。次の次のうるう年には、もう太陽系の新顔のお披

露目がすんでいるかもしれない。きょうはふだんより少し遠くに想像力を跳躍させる日にしてはどうだろう。

毎日新聞 2008年2月29日 0時02分

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2008-02-29(Fri)

浦じまい 春秋(2/29)

春秋(2/29)
 
「浦じまい」という言葉があるのを初めて知った。海難事故で行方の知れぬ家族や漁師仲間の捜索に区切りをつけ、海の安全を祈る儀式だという。海上自衛隊のイージス艦と衝突した漁船の母港でも、人々はこの悲しい習わしに耐えた。

▼無念だろう。あきらめきれまい。それでもどこかで気持ちを切り替え、また漁に出ていくのが海に糧を求める暮らしというものなのか。そんな姿にひきかえ、防衛省や海自の体たらくといったら情けない限りだ。説明は二転三転する。つじつま合わせはほころびる。国を守る組織の誇りはいずこにあるのだろうか。

▼漁船の灯火を発見した時間をめぐる謎が深まるなか、こんどは事故直後にヘリコプターで航海長を呼び、海上保安庁に無断で事情聴取をした問題が騒ぎになっている。こっそり口裏合わせをしたのではないか、経緯の説明にもウソがあるのではないか……。これでは事故の真相究明も再発防止策づくりも道は遠い。

▼かつての「なだしお」事故では、航泊日誌の書き換えが大きな批判を浴びた。どうやら、そういう疑惑体質はこの組織の伝統らしい。事故から10日目のきのう、千葉県勝浦市の漁港から「浦じまい」でつらい思いを振り切った僚船が沖に出た。片や防衛省や海自は、区切りなど到底つけようもない混迷の中にある。

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2008-02-29(Fri)

第9惑星 卓上四季 (2月29日)

卓上四季
第9惑星(2月29日)

朝の早い方はお気づきかもしれない。午前五時をしばらく過ぎると、明るい星が二つ、並んで南東から昇ってくる。接近中の水星と金星だ。右上には木星が輝く。三月六日には、細い月影が、水星と金星に寄り添う。寒い朝に起きて

いる人だけに贈られる、星たちの無言劇である▼水星は俊足だ。太陽の周囲をわずか八十八日で回る。古代ローマでは、神々の伝令役マーキュリーの星と考えられた。旅人や泥棒の守り神でもある。金星とともに、太陽に最も近い惑星

だ▼はるか離れた太陽系の端の方には、新しい惑星があるかもしれない。そんな仮説を神戸大の研究者が発表した。大規模に観測をすれば十年以内に発見されるかもしれないという▼太陽系で一番外側の惑星・海王星のさらに向こう

に、小さな星がたくさんある。ここ十数年でそれがわかった。だが小天体は、惑星と軌道が異なる。楕円(だえん)になったり、傾いたりしている。なぜなのか。新しい惑星がある、と考えるとうまく説明できるのだそうだ▼準惑星に

格下げされた冥王星は、月よりも小さな星だった。予測される新惑星は、地球と似た直径だという。光かすかな宇宙で、千年かけて太陽を回る。本当に見つかれば、冥王星に代わる第九惑星だ▼どんな名が付くのだろう。冥王星は、死

者の国の神からとっている。どうせならもっと輝く名前がいい。ちょっと気の早い心配か。

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2008-02-28(Thu)

菊田一夫 編集手帳2月28日付

2月28日付 編集手帳
 
劇作家の菊田一夫は帰京する飛行機のわずかな待ち時間に、大阪の街で芝居を見た。“のぞいた”というべきか。3分間ほどで、そそくさと席を立った◆去り際、脇役を務める女優の名前を劇場の支配人にたずね、「今度、会わせて

ください」と告げて空港に向かった。森光子さんとの出会いは今から50年ほど前のことである◆森さんは長い下積みを抜け、菊田作「放浪記」の舞台で初の主役を演じた。黒柳徹子さんの対談集「おしゃべり倶楽部(くらぶ)」(文芸

春秋)で当時を回想し、「師と呼べる人は学校の先生のほかには菊田先生しかいません」と語っている◆菊田は生後すぐ、他家にもらわれた。養父は小学生の菊田を年季奉公に出して失跡する。浮世の辛酸をなめるなかで磨かれた人間

を見抜く眼光がいかなるものであったかは、のちの大女優を発掘した3分間の挿話が物語っていよう◆菊田はラジオドラマ「鐘の鳴る丘」「君の名は」などで戦後の放送史にも足跡を残した。生まれたのは1908年(明治41年)3

月1日、まもなく生誕満100年を迎える◆森さんの舞台「放浪記」は、今月23日の公演で通算1900回を数えた。初演から約半世紀が過ぎて今なお観客を魅了しつづける芝居と、夜空の星が交錯するような3分間の出会いと――人のえにしとは不思議なものである。

(2008年2月28日01時50分 読売新聞)

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2008-02-28(Thu)

石原銀行 天声人語2008年02月28日(木曜日)付

天声人語
2008年02月28日(木曜日)付

 おとといの東京都議会で、石原知事と議員が妙なやりとりを交わした。「発案者として当然、もろもろの責任を感じている」と知事。「もろもろとはどんな責任か」「もろもろとはまさにもろもろ」▼知事が3年前に作った「新銀行

東京」が追い込まれた。都が出資した1000億円の大半は赤字に食われ、知事は財政から400億円の追加出資を決めた。さらなる血税投入には反対の声が多い。そもそも、各紙の社説がここまでそろうのは珍しい▼石原知事は失敗

を認めよ(朝日)「石原銀行」は幕を閉じる時(日経)もう店じまいすべき(読売)撤退への道筋を描く時だ(毎日)手を引く時(東京)役割はすでに終わったといえないか(産経)。散々である▼中小零細企業を救う心意気はいい

が、開業時には貸し渋りは消えかけていた。それでも存在理由を示すため、甘い審査で貸し付け、焦げつかせた。約1000億円の累積赤字は、プロも用心する小口融資のヤブに素人が分け入った結果だ▼知事や経営陣はもちろん、設

立に賛成した都議会の責任は重く、追加出資を認めれば恥の上塗りだ。例えば地震対策にも使えた都税を、時代感覚に欠けたお役所流が食いつぶす。知事の面目のために公金を重ねてつぎ込めば、失敗は大の字つきで都政史に残りかね

ない▼もろもろの成功に彩られた人生の秋に、しくじりを認めるのは勇気がいる。だが〈過ちて改めざる、これを過ちという〉と論語にもある。改めぬ「もろもろ問答」の間にも、新銀行はぼろぼろの度を深めていく。

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2008-02-28(Thu)

独裁者 余録

余録:独裁者
 
ロシアの女性ピアニスト、マリア・ユージナには1枚だけ作られたレコードがあった。モーツァルトのピアノ協奏曲23番である。ある日、独裁者のスターリンがラジオを管轄する委員会に電話をかけてきたのだ▲「昨日ラジオで聞

いたモーツァルトのレコードはあるか」。実は生放送だったのだが、電話に出た担当者は恐怖のあまり独裁者に「ありません」といえなかった。委員会はユージナとオーケストラを再招集して深夜演奏させ、1枚だけ作ったレコードを

スターリンの別荘に届けた▲録音の際には指揮者は緊張で気絶した。また後日破格のギャラを送ってきたスターリンにユージナが独裁を非難する手紙を返したが無事だった。そして後に独裁者が息を引き取った時、プレーヤーの上には

このレコードがあったという(「ショスタコーヴィチの証言」中公文庫)▲ヘンに音楽好きの独裁者も音楽家にはいい迷惑だ。だから映画と共に音楽好きといわれる金正日(キムジョンイル)総書記が姿を現すかどうか注目されたニュ

ーヨーク・フィルハーモニックの平壌公演でも、楽団内に「米国を悪魔呼ばわりする政府に敬意を表したくない」との声が上がったそうだ▲結局のところ米朝両政府のシナリオ通りコンサートは行われたが、会場に金総書記の姿も、米

国高官の姿もなかった。北朝鮮の核放棄の進展にともなう関係正常化へのムード作りを狙った米国も、肝心の核問題が足踏み状態では思惑外れだ▲米国歌の演奏がテレビで生中継された同時刻にはラジオで対米非難をしていたという北朝鮮だ。バイオリン外交(米メディア)もいいが、くれぐれも独裁者の注文通りにならぬよう願いたい。

毎日新聞 2008年2月28日 0時03分

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2008-02-28(Thu)

真実は生きている 春秋(2/28)

春秋(2/28)
 
45年前の今日は「日本の巌窟王(がんくつおう)」吉田石松さんに再審無罪の判決が出た日だ。強盗殺人のぬれぎぬを着て、無実を叫びつつ20年余り服役し、仮釈放されるやその足で警察や検察、裁判所を回り冤罪(えんざい)を晴らす行動に出た執念を50年がかりで実らせたのだ。

▼出所直後の訴えを聞き「今様巌窟王奇譚(きたん)」と記事に書いて以来、支援を続けた元新聞記者の筆による顛末記(てんまつき)を読むと、戦災で1件記録が焼失する不運にもめげず、何度も再審請求を重ねた一徹さに頭が下がる。同時に、何が真実なのかを見極めなければならない刑事裁判の難しさを思った。

▼20年前の逮捕状で身柄を拘束された三浦和義容疑者を巡る報道が、サイパンからロサンゼルスから押し寄せている。米国で起きた犯罪で日本人が容疑者・被告人になった事件の特異性ゆえに、普通はない“有罪を求める再審裁判”が実現しようとしているのだから、過熱も仕方がないか。

▼逮捕状に記された容疑事実はロサンゼルス市警が考えた「真実」に基づくが、その核心部分を日本の確定裁判は「真実とするには疑いが残る」と判断ずみだ。市警の思惑どおり、二つの国をまたいだ“再審裁判”が行われるならば、どんな「真実」が認定されるのだろう。ちなみに巌窟王事件の顛末記の題は『真実は生きている』である。

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2008-02-28(Thu)

身の丈 卓上四季(2月28日)

卓上四季
身の丈(2月28日)

何本も飛んでくる手裏剣を、まとめて木の枝でよける。次の瞬間には相手の姿を追っている。むかし読んだ時代物の漫画に、そんな忍者が出てきた。イージス艦は、言ってみればこのイメージに近い▼たくさん飛来するミサイルや航

空機に、同時に対処する能力がある。相手を探知すると、一つ一つにどう対応するか、短時間に判断する。弾道ミサイルの発射から着弾まで、わずか数分のうちに迎撃する計画が進められている▼だが最新鋭のシステムを運営する人間

たちは、一体どうなっているのだろう。「あたご」が漁船を発見したのは十二分前、という情報をいつつかんだか。単純なことなのに、防衛省のドタバタは目を覆うばかりだ▼「確かかどうか確認しないまま公表すれば混乱する」。石

破防衛相が語った。もっともらしい弁明だが、最初に二分前と説明したのは石破氏だ。海保に無断で密室の事情聴取までした。それでも明確に説明できない。何かを隠している疑いは消えない▼だが、本当に隠ぺいでないのなら? 

この組織は鋭い観察力も的確な判断力もないことになる。情報もまともに伝わらない。一瞬で多数に対処するシステムなど使いこなせるのか。ミサイルが来ても「自動操縦で」と寝ていれば簡単だが▼あたごは建造に千四百億円かかった。米国の顔色をうかがって、身の丈に合わない装備を買ったのかもしれない。

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2008-02-26(Tue)

三浦和義容疑者 編集手帳2月26日付

2月26日付 編集手帳
 
洋服の柄に「ペーズリー柄」がある。勾(まが)玉(たま)のような、ゾウリムシのような模様をちりばめ、遠目には迷路のようにも見える。無類のファッション音痴ながら、その名は記憶している◆23年前、「ロス疑惑」の渦中にい

た三浦和義容疑者が警視庁に逮捕されたとき、この柄のシャツを着ていた。テレビのワイドショーで連行の場面を解説する服飾評論家に教わった言葉である◆服の柄まで論評する異様な騒ぎは、今の若い人の想像に余るだろう。「ロス

疑惑ホシは誰でも知っている」は当時の時事川柳だが、テレビカメラに一挙一動を追われたその人は、逮捕時にはすでに芸能人に劣らぬ有名人になっていた◆当時の妻を米国ロサンゼルス市内で銃撃して殺害したとされる容疑は、日本

では5年前に無罪が確定している。その三浦容疑者が今度は、旅先の米自治領サイパン島でロサンゼルス市警に逮捕された。新証拠が見つかったという◆「容疑者」が「被告」を経て「元社長」に戻り、再び「容疑者」として「被

告」の扉の前に立つ。38歳からいまは60歳になったその人を次に待ち受ける呼び方がいかなるものになるか、米国の審理を待つほかない◆新聞の縮刷版で当時の写真を見た。迷路のようなペーズリー柄は、事件の上を流れた転変さだまりない歳月の予告であったかも知れない。

(2008年2月26日02時17分 読売新聞)

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2008-02-26(Tue)

三浦和義逮捕 天声人語2008年02月26日(火曜日)付

天声人語
2008年02月26日(火曜日)付

 少なくとも先週末まで「ミウラカズヨシ」といえば、きょう41歳となるサッカーのカズこと三浦知良さんである。若い世代は「ほかにもいたのか」と驚くだろう。ふた昔前の時の人が、ニュースの主役で戻ってきた▼「ロス疑惑」

の三浦和義元社長(60)が、サイパン島で米当局に逮捕された。81年に妻一美さんを銃撃させたという殺人容疑だ。日本では無罪が確定しているが、事件の舞台である米国も独自に捜査や裁判を進めることができ、重罪には時効が

ない▼これほど呼称が変転した人も珍しい。悲劇の夫、三浦「さん」は自らも足を撃たれ、病院で涙ながらに状況を語った。4年後の逮捕で敬称が消え、次いで被告と呼ばれ、逆転無罪で元社長に変わる。万引きの容疑者にもなった

が、司法や報道の人権侵害を語る講演では「氏」と紹介された▼銃撃3カ月前、知人に妻を殴打させたとする殺人未遂事件では懲役6年の刑が確定し、あれやこれやで、拘置所や刑務所に5500日いたそうだ。今、何度目かの容疑

者に戻り、再始動させた人生が暗転の際(きわ)にある▼27年前の真相を追い続ける米捜査陣の執念には驚く。一国の最高裁が結論づけた事件を他国の司法が掘り返せる仕組みには、なおびっくりだ。米連邦捜査局(FBI)のいう

新証拠とは万人が納得するものなのか▼ロスの駐車場で撃たれなければ、一美さんは昨日、55歳を迎えていたはずだ。母は「誕生日を前に少しだけ光が差してきた」と語った。人生、歳月、正義。様々を考えさせる仰天の報である。

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2008-02-26(Tue)

ロス疑惑 余録

余録:「ロス疑惑」
 
日本のアニメ「名探偵コナン」の米国でのタイトルは「ケース・クローズド」という。事件はみごと解決、「一件落着」といった感じの成句である。だが現実の世の中にはたとえ未解決でも、時の流れとともに開かれなくなる事件

のファイルもある▲ケースのつくタイトルの米テレビ番組といえばもう一つ「コールドケース」という連続ドラマもある。こちらは「未解決事件」との意味で、女性刑事が迷宮入り事件の解決に挑む。つまり閉じられそうな事件のフ

ァイルを開くドラマである▲「ロス疑惑」といってもピンとこない若い方々も多いだろう。日本人にとってすでに閉じられたこの事件のファイルをひそかに開いて捜査していたのがロサンゼルス市警のコールドケース担当官だ。事件を

知る人なら、まず耳を疑った三浦和義容疑者のサイパンでの逮捕である▲なかには事件の記憶と重なったそれぞれの人生の一時期を思い出した方もいよう。発生から27年、日本の裁判では妻一美さん銃撃でとっくに三浦元社長の無罪

が確定している。犯人不明のまま法的にもケース・クローズドだったはずである▲だが殺人で時効のある州はないという米国のことだ。DNA鑑定はじめ新たな捜査テクノロジーにより、ドラマそのままに何十年も前のコールドケース

の解決も相次いでいる。こと未解決重要事件のファイルは閉じられることがないらしい▲米当局は新証拠の出現をほのめかす一方、三浦元社長は日本で無罪の事件のむし返しに抗議している。日米の法制度のはざまで開かれた事件のファイルから何が出るか。ここは日本人もかつての狂騒の反省を踏まえ、冷静に見守りたい。

毎日新聞 2008年2月26日 0時15分

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2008-02-26(Tue)

地球温暖化 春秋(2/26)

春秋(2/26)
 
 南から猛々しい強風がどっと吹きつける春一番のすぐ後、風向きは一転して北西からの冷たい烈風が、容赦なく列島を吹き荒れた。冬と春がせめぎ合う今、日本海と太平洋に交互に低気圧が現れ、南寄りの春疾風(はるはやて)と北からの春北風(はるきた)が、交代で日本を襲い脅かす。

▼季節の移ろいでも、気温が上昇して行く過程では、大気の循環、エネルギーの移動が激しくなる。地球全体の温暖化ならなおさらで、寒冷地がただ穏やかにぬくぬくと温暖の地に変わるなんていうのは、素人の妄想とされる。科学者が予測するのは、春の嵐の何倍も強力な激しい気象が頻発する過酷な世界である。

▼ことしは京都議定書の第一約束期間の最初の年。いよいよ温暖化ガスを減らす正念場にさしかかり、とっくに退場したはずの温暖化歓迎論などが、本や雑誌でひょっこり頭をもたげてきた。平均の気温や水温が1度上がったら生態系はどれほど変容するか、農業や漁業がどれほど打撃を受けるか、科学的検証抜きで、食糧増産を語る。

▼エコだエコだとあまりかまびすしいのに少々うんざりした、という程度の話なら、正直にそういえばいい。天の邪鬼(あまのじゃく)や逆張りには、的を射ていれば小気味よさがある。あまり前のめりにならずに、温暖化を考える足しになったかもしれない。要は論の中身、である。

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2008-02-26(Tue)

時効 卓上四季(2月26日)

卓上四季
時効(2月26日)

星座の「てんびん」は、一説には正義の女神の持ち物だった。女神はこれを使って、人の行いの善悪を量った。だが人間は知恵をつけるほど罪深くなる。女神はあきれ果て、てんびんを持って空へと昇った▼下界の裁きは、それから

人の手に委ねられた。てんびんに罪を載せ、重さを量る。神ならぬ身には難しいことが多い。一度は釣り合った後も、再び傾くことがある▼てんびんの反対の皿に、時の重みが加わるのもその一つだろう。時間と共に、罰するべきだと

の感情が和らぐ。記憶は薄くなり、裁判が難しくなる。こうした理由で、検察官が訴えを起こせなくなる。時効(公訴時効)である▼では二十七年という時の重みはどれほどか。「ロス疑惑」の三浦和義容疑者が殺人などの容疑でロサ

ンゼルス市警に逮捕された。日本では殺人に関して、証拠不十分で無罪が確定している▼「新証拠」が出たのだという。米国の時効制度は州により異なるが、殺人などの重大犯罪には適用しないのが一般的だ。日本では死刑にあたる

罪の時効は二十五年だ。少し前までは十五年だった。すぐ水に流しがちな日本の文化と関係があるかどうか▼容疑をかけられた犯罪と、時の流れ。それぞれに重みがある。裁く国の考え方で、てんびんは右にも左にも傾く。一番重いのは被害者の人生だ。もしも重大な罪を犯したのなら、償うのが当然にもみえる。

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2008-02-25(Mon)

長野県立蓼科高校 編集手帳2月25日付

2月25日付 編集手帳
 
蓼(たで)は湿地に自生する植物で、独特の辛みを持つ。「蓼食う虫も好き好き」とは、辛い蓼を食う虫もあるように、人の好みは様々という意味だ◆千曲川が近い長野県立蓼科高校は、蓼の葉3枚で雪の結晶を囲んだ図案を校章に使

う。約4年前に封切られた映画「スウィングガールズ」は、地方の女子高生がバンドを組み、ジャズ演奏する内容だったが、そのモデルにもなった◆蓼科高のジャズクラブは、米国ワシントンのポトマック河畔で、3月末から開かれる

全米さくら祭りに出演する。創部10年で海外公演は初めてだ。メンバーは現役とOGの30人。クラブ顧問の斎藤研郎教諭が指揮する◆ポトマック河畔の桜は、1912年(明治45年)に、日本から贈られたソメイヨシノの苗木に

由来する。ホワイトハウスに近い桜の名所で、日米友好の象徴である。固い蕾(つぼみ)がほころび始める春も近い。数千本の桜が咲きそろう◆手持ちの演奏曲は「シング・シング・シング」など幅広いが、「桜にちなんだ曲を披露した

い」と斎藤教諭は話す。市内のストリートライブで、観光客たちを楽しませることも計画している◆ジャズ発祥の米国での軽快なスウィングは、日米友好の輪を広げるだろう。タデ科の植物に、淡紅色の可憐(かれん)な花をつけるサクラタデがある。“サクラタデガールズ”に期待したい。

(2008年2月25日01時36分 読売新聞)

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2008-02-25(Mon)

春一番 天声人語 2008年02月25日(月曜日)付

天声人語
2008年02月25日(月曜日)付

 中国西域のタクラマカン砂漠を取材したとき「カラブラン」と呼ばれる風の恐怖を聞いた。訳せば「黒い嵐」となるその風は、砂を巻き上げて太陽を隠し、あたりを夜のように暗くする▼竜巻に近い風なのだろう。子どもやヤギが

何十キロも飛ばされた、砂に埋もれて死にかけた、など怖い話がいくらでもある。〈故郷を埋め、愛する家族を生き別れにさせる……〉。ウイグル族の人々は恨み節を口に、風と砂を防ぐ植林に余念がなかった▼のどかに聞こえる日本

の春一番も、正体は荒々しい風だ。海は大シケ、山では気温が上がり雪崩がとどろく。古くは、恐れをこめた漁師言葉だったらしい。150年ほど前には長崎県の五島沖で漁師53人が遭難した。痛ましい災難もへて、戦後に俳句の季

語となって広まった▼おととい関東に吹いた春一番は土ぼこりを盛大に巻き上げた。クレーンを倒し、催事のテントを飛ばして、けが人を出した。ようやく止(や)むと、返す刀で、きのうにかけて北風が吹き荒れた▼「疾風に勁草

(けいそう)を知る」と言う。「強い風が吹いて初めて、どの草が強いか分かる」という意味だ。逆に弱い草も分かる。よく止まる鉄道あたりが筆頭だろうが、安全優先ならやむをえない。満艦飾(まんかんしょく)の看板は、今にも

飛びそうで不安が募る▼気象学の関口武さんによれば、日本には2000を超す風の名前があるそうだ。とみに死語化しているのは、風に無関心でいられる生活のゆえらしい。その無関心が、風の怖さへの鈍感であっては、手痛いしっぺ返しを食いかねない。

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2008-02-25(Mon)

調べる学習 余録

余録:調べる学習
 
「はつか大根のはつかってなーに?」。千葉県袖ケ浦市立奈良輪小1年、竪石鼓太郎くんはホームセンターで大根の種を見つけ、母親に聞いた。「20日のことよ」「だったら、夏休みにつくれるぞ」。鼓太郎くんは調べる学習に挑

戦した。「赤くて甘そうだけど、普通の大根と同じ味だろうか」▲芽がでて、葉が開き、虫に葉を食べられる姿を一喜一憂しながら観察した。20日目、根の部分がちょっと赤くなっているだけだったが、とりあえず口にすると「とっ

ても辛い」。収穫できたのは28日目だった▲さらに「暑い夏、虫から自分を守るために辛くなる。冬には甘くなる」と聞き、びっくり。9月に再度挑戦すると、今度は60日かかり「本当に甘いや」。葉を食べるアオムシがチョウに

なる不思議さ、殺虫剤のこと、季節による味の変化など次々と学んでいく▲そのリポート「ぼくのそだてたはつかだいこん どうなるぼくの20日かん!」が第11回図書館を使った「調べる」学習賞コンクール(図書館の学校など主

催)の文部科学大臣奨励賞(小学校低学年の部)に選ばれた。63ページにわたる調査記録は素朴な発見の喜びに満ちている▲先日公表された学習指導要領改定案では小中学校とも「総合的な学習の時間」が削減されている。総合学習

は、教える側の力量が求められ、大変だ。しかし、子供たちが自ら「学ぶ力」をつけるためにもっと充実させてほしい▲「肉は大好きだけど、野菜は苦手」な鼓太郎くんはいう。「野菜を作っている人の大変さがわかった。調べることもがんばったので、野菜もがんばって食べてみます」。子供たちの知的な好奇心を大切に育てたい。

毎日新聞 2008年2月25日 0時05分

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2008-02-25(Mon)

三浦和義容疑者 春秋(2/25)

春秋(2/25)
 
異例ずくめだった事件が、また思ってもみない展開をみせている。米ロサンゼルス市警が三浦和義容疑者を妻を殺害した容疑で逮捕したと知って、世の耳目をひいたロス疑惑、疑惑の銃弾といった言葉や、無罪が確定したはずだという記憶がよみがえってきた。

▼日本の憲法は、判決が確定した事件について再び裁判を起こすことを禁じている(一事不再理)。それに27年前に起こった事件ならば、どんな重罪に相当する犯罪でも時効になっていないか。そう思った方もいよう。「寝耳に水」「もう終わった事件だから」と当時の捜査関係者が口々に漏らすのも無理はない。

▼しかし米カリフォルニア州法に重罪にあたる殺人の時効はないという。一事不再理も一国内の話で、日本で確定判決が出た事件について米国で起訴することも、その逆も可能だ。米国からの情報は乏しく、逮捕の背景や捜査の行方は分からないが、少なくともロス市警にとって事件は終わっていなかったのである。

▼人、物、カネ、情報が世界を駆けめぐれば事件もやすやすと国境を越える。グローバル化の時代には捜査も国際協力が欠かせない。中国製冷凍ギョーザ中毒事件はそんな課題を突きつけた。三浦容疑者逮捕という驚きのニュースも捜査や裁判が一国だけでは完結しない現実を映すのだろうか。

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2008-02-25(Mon)

選挙の土俵 卓上四季(2月25日)

卓上四季
選挙の土俵(2月25日)

戦後長く、日本とイタリアの政治はよく似ているといわれた。首相がころころかわるのと、万年与党がある−。だが、しぶとい日本の自民党と違って、イタリアのキリスト教民主党は一九九○年代半ばに消えた▼汚職と新しい選挙制

度のせいだ。比例代表から小選挙区中心へと、大きく変わった。今はまた比例代表制だ。議会は、十いくつかの政党・会派が乱立し政局は不安定だ。先日、小政党が連立を抜け、解散・総選挙の事態になった▼選挙は民意を反映する。

だが、選挙制度という「土俵」の決め方によって、その表れ方はかなり違ってくる。小選挙区制で語り草になっているのは、九三年のカナダ総選挙だ。時の与党が百六十九議席から、たった二議席に。文字通りの地滑り的大敗だ▼日本

で戦後初の衆院選は原則、県単位の大選挙区だった。投票は二−三人を選ぶ連記制。うち一人は女性候補に、と投票する人がかなりいたようだ。多くの女性議員が誕生した。次から中選挙区・単記制に変わり、その数はうんと減った▼

いまの小選挙区中心の制度は二大政党による政権交代を想定する。だが、自民と民主以外の少数派にとって、この土俵は不都合だ▼相撲の土俵は丸いが、選挙の土俵は四角や三角にもなる。猫の目のように変えるのはまずかろうが、仕組みに絶対はない。どんなのがよいのか。政治の永遠のテーマかもしれない。

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2008-02-22(Fri)

法相の問題発言 編集手帳2月22日付

2月22日付 編集手帳
 
憲政史上の名演説家で番付をつくるならば、不動の両横綱は咢堂(がくどう)・尾崎行雄と木(ぼく)堂(どう)・犬養毅だろう。「咢堂が雄弁は真珠玉を盤上に転じ、木堂が演説は霜夜(そうや)に松籟(しょうらい)を聴く」と評され

た◆真珠のころがる涼やかな音色や、松の梢(こずえ)に吹く風の音を聴かせよと、無理な注文をするつもりはないが、せめて金盥(かなだらい)に石ころを投げ込むのは慎んでほしいものである。鳩山邦夫法相の舌禍が止まらない◆「死

刑ベルトコンベヤー」発言から、「友人の友人がアル・カーイダ」「田中角栄先生の秘書時代に、ペンタゴン(米国防総省)から大変おいしい食事を毎月ごちそうになった」「志布志事件は冤罪(えんざい)と呼ぶべきでない」まで、

“騒堂”とでも号を贈りたくなる◆予想もしない質問に口が滑ったのならばまだしも、法相の問題発言はいつも問わず語りである。その場を盛り上げようとするサービス精神が裏目に出たと解説する人もいる◆スピーチの名手で知られ

る作家の丸谷才一さんはエッセーのなかで、失言の予防には原稿を用意するに限ると語っている。原稿なしにしゃべる。受けない。聞き手を何とかして喜ばせたい。焦る心に失言の落とし穴が待っていると◆一を聞いて十を知ったつも

りで百しゃべるのが政治家の常とはいえ、立場というものがあろう。金盥と石ころに代えて、紙と鉛筆が要る。

(2008年2月22日01時41分 読売新聞)

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2008-02-22(Fri)

在日米軍基地の自主閉門 天声人語2008年02月22日(金曜日)付

天声人語
2008年02月22日(金曜日)付

 江戸の世に閉門という刑罰があった。武士や僧侶の屋敷の門を封じ、昼夜の出入りを禁じて謹慎させる。医者を呼ぶこと、火事から逃げることは認められていた▼世間に合わせる顔がないと恥じ入ったか、在日米軍が基地あげての

「自主閉門」である。沖縄、岩国の将兵と家族ら5万5000人に終日の外出禁止令が出た。中学生暴行、飲酒運転、住居侵入と不始末が続いては、基地のゲートは内から閉ざすほかない▼きょう22日は、全国の米軍こぞって「反省

の日」だという。外出禁止が長引けば、周辺の飲食店なども「閉」の危機を迎える。基地経済の足元から開門を望む声を待つ腹かと、勘ぐりたくもなる▼ここに、真っ先にこじ開けたいものがある。わが自衛隊の閉鎖体質だ。イージス

艦に衝突された漁師の親族に、幹部は「報道陣には知らんぷりを」と求めたらしい。カメラの前で自衛隊をなじり、何度も泣かれてはかなわないという意味なら、ひどい▼事故の連絡が遅れたうえ、重要な情報がなかなか明かされない

のも腹立たしい。見張りが漁船の灯火に気づいたのは、先に発表された衝突2分前ではなく12分前で、その後も自動操舵(そうだ)で直進していた。自衛隊に不利な証言が後から出てくるのはどうしたことか▼戦闘集団には秘密主義

がつきものだが、それに振り回されては知る権利も文民統制もおぼつかない。大漁を信じる親子船を切り裂いた経緯に、隠すべき情報はなかろう。組織防衛と保身にばかり熱心で、国民には門を閉ざす「自分を守り隊」では困る。

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2008-02-22(Fri)

ノルウェーの画家ムンク 春秋(2/22)

春秋(2/22)
 
結核を病む母と、5歳で死別した。姉と弟も若くして亡くした。自分自身も虚弱な体質だった。「病気と狂気と死が天使のふりをして私の周りを飛び回っていた」。ノルウェーの画家ムンクは、生涯を通して「死」を身近に感じていた。

▼30歳で描いた『星月夜』という作品を見た。題名に反して、月は見えない。月夜というより白夜なのだろう。人の姿はない。フィヨルドの海岸線のうねりは、あの有名な『叫び』と同じだ。薄明るい空のかなたに、ほのかに星が瞬く。無音の青の世界。漂う不安。それを星の白い光が、かろうじて癒やしている。

▼星とは人にとって、優しさであり、あこがれであり、希望であろう。技術の粋を尽くした人工衛星とて、当初は夢を乗せて輝く星であったに違いない。故障した情報衛星に、米国がミサイルを命中させた。軍事的な実験ではなく、落下すると危ないからだという。真相は粉々に砕かれて、宇宙の闇に散って消えた。

▼ムンクには『星月夜』という同名の作品が、もう1つある。雪原と針葉樹の森の向こうに明るい街の灯(あか)りが見える。星の光も心なしか力強い。1枚目から30年。老境の画家は「死」から解放されたのだろうか。ふと手前を見ると、黒い人の影が2つ、雪の上に長く伸びている。空の星に死の手が忍び寄っている。

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2008-02-22(Fri)

時ならぬ天狼射撃 余録

余録:時ならぬ天狼射撃
 
今の季節の夜空でひときわ明るく青白い光を放つのは全天一の輝星シリウスだ。中国ではらんらんと光るオオカミの目にたとえて「天狼(てんろう)星」という。昔の人はその輝きに殺気のような不吉なものを感じたらしい▲このた

め、その下の大弓に矢をつがえた形に見立てた弧矢八星という星座の矢は天狼星を狙っている。また「青雲の衣、白霓(はくげい)の裳(しょう)、長矢を挙げて天狼を射る」(楚辞)というように詩文でも「天狼を射る」は常套(じ

ょうとう)句のように使われたという(野尻抱影(のじりほうえい)著「星三百六十五夜」)▲だが不吉というだけでなく、地上に落ちて人命にかかわる害を及ぼしかねない天の目もある。それを落ちてくるより先に射落とそうという

試みが米軍によって太平洋上で行われ成功した。どうも冬の夜空の詩情とはかけはなれたハイテク軍事技術による時ならぬ天狼射撃である▲破壊されたのは制御不能になった米国の偵察衛星で、毒性の強い燃料約450キロが搭載され

ていた。人の住む場所に落ちる恐れがあり、ブッシュ大統領の命令でハワイ沖のイージス艦から高高度用ミサイルを発射し、大気圏外で捕捉破壊した▲米国防総省はその後の破片や燃料の飛散状態を調査中という。米国は昨年の中国に

よる衛星破壊実験を軌道上に残る破片の危険を理由に非難している。今度の破壊では破片は燃え尽きると説明しており、その検証が必要となっているからだ▲中国へのけん制や、偵察衛星の機密保持の思惑も取りざたされていた衛星破壊作戦だ。この先くれぐれも相手の衛星をオオカミの目に見立てての軍拡競争が、人類全体の資産である宇宙空間の安全を損なうことのないよう願いたい。

毎日新聞 2008年2月22日 0時01分

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2008-02-22(Fri)

イージスの盾 卓上四季(2月22日)

卓上四季
イージスの盾(2月22日)

プロ野球のエースなら、速球は時速百四十キロ台になる。十八キロといえば自転車ほど、ボールにトンボが止まれそうだ。その程度の速度で、イージス艦「あたご」は進んでいた▼それでも最大級の自衛艦だ。札幌のJRタワーを横

にしたくらいの全長がある。衝突の激しさで親子船は真っ二つに割れた。引き上げられた船体を見ると、鋭い刃物で切ったようだ。操舵(そうだ)室あたりだけがない。共に働いた二人の姿はまだ見つからない▼防衛省が説明を変え

た。最初、見張りが漁船を目で見たのは衝突二分前と言った。実は十二分前だったという。それでも避けようとせず、直前まで機械任せにした。ほったらかすのなら、見ていないのと同じだ。艦内にたるみがあったのか、相手が避けれ

ばよいとのおごりがあったのか▼同じ見張り員の証言なのに、説明が二日たって変わったのもわからない。事故当初は、首相や防衛相への伝達が遅れた。レーダー員や当直士官の行動はなお不透明なままだ。都合のいい情報を小出しに

していると疑う人もいる▼「イージス」はギリシャ神話から来た。ゼウスがアテナに与えた盾の名とされる。盾を覆う魔法のヤギの皮ともいわれる。攻撃から国民を守る盾との意味があろう▼防衛省は逆に、国民からの批判をかわす盾を作って、身を守るのに懸命なようだ。事故を覆い隠す魔法の皮は、はがさなければなるまい。

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2008-02-21(Thu)

キューバとベネズエラ 国家首脳野球親善試合 編集手帳2月21日付

2月21日付 編集手帳
 
キューバとベネズエラが国家の首脳を交えて野球の親善試合をしたのは7年ほど前である。キューバ側の監督はフィデル・カストロ国家評議会議長が務めた◆「代打、おれ」と言ったかどうか、打席にも立った。フルカウントから次

の球を見逃す。審判に「ストライク」と三振を宣告されてからが、「墓場に入るまで反逆者だ」と日ごろ公言するその人らしい◆カストロ氏は「ボール」と自己判定して一塁に歩いたと、当時の外電が伝えている。国家戦略を立てる監

督であり、遂行する四番打者であり、評価を下す審判でもある氏の独裁者たる立場を、試合のひとこまは象徴しているだろう◆病気療養中のカストロ氏が議長職を引退するという。バチスタ独裁政権を倒したキューバ革命から半世紀、

国家の最高権力者として君臨してきた選手兼任監督の退場となる◆最初は同志82人と始めたゲリラ戦で、最後は政府軍約2万人に勝利した神話が残る。神話は国民の誇りを高めもしたが、神話の主人公を頑迷にもしただろう。一切の

批判を許さず、言論や体制選択の自由を国民から取り上げてきた独裁体制の置き土産は重たい◆ユニホームは脱いでも審判の座は明け渡さず、院政を敷くとの見方もある。病身の81歳、ここらあたりで一観客としてスタンドから試合を見守るのもいいだろう。

(2008年2月21日01時36分 読売新聞)

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2008-02-21(Thu)

カストロ国家評議会議長 天声人語2008年02月21日(木曜日)付

天声人語
2008年02月21日(木曜日)付

 「人間を動かす二つのテコは恐怖と利益である」(ナポレオン)。この二つで人と歴史を動かした男の実感だろう。では、老革命家を内から動かしたのはどちらのテコなのか▼キューバのカストロ国家評議会議長(81)が、国家元

首を退く。「心理的にも政治的にも、私の不在に備えるのが義務だ」と。権力ではどうにもならない高齢と病気。その現実に押されての決断だ▼20世紀半ばのキューバは、砂糖などの基幹産業を米国資本が握る半植民地だった。怒れ

る青年弁護士カストロは武力蜂起に失敗し、亡命先のメキシコで盟友ゲバラと出会う。同志82人が中古のヨットで母国に潜入して以来、半世紀も国を率い、米国をいら立たせた▼カリスマ指導者の「引退」は、自由な報道と野党の

ない国では珍しい。うかつに権力を手放せば、政敵や民衆の反撃に遭うかもしれない。地位だけが今日の利益を生み、明日の恐怖を退ける。だが、こうして「内なるテコ」がいつまでも働かず、歴史のハンマーに葬られた者は多い▼ナ

ポレオンは暗殺を恐れ、ひげは自分でそっていたと伝わる。自らも恐怖に動かされていたわけだ。それでも武運は尽き、島に流され、造らせた凱旋門を棺(ひつぎ)で抜けることになった▼並外れた権力者は、並外れて孤独だ。どう

かすると側近や親族さえも信じられなくなる。カストロ氏は幸せにも、弟に譲るらしい。そして、自身は「一兵卒として戦い続ける」そうだ。「恐怖と利益」を吟味し、それだけが最晩年を安らかに過ごす道だと判断したのだろう。

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2008-02-21(Thu)

カストロ議長 余録

余録:カストロ議長
 
キューバ人は旧ソ連から経済援助とともにアネクドート(笑話)による風刺も輸入したらしい。90年代キューバでささやかれたという傑作がある。ある日クリントンとエリツィンとカストロがライオンと出くわしたのだ▲クリント

ンとエリツィンはライオンと闘ったが、大ケガをする。だがカストロがライオンに近寄って耳に何かささやくと、ライオンはたちまち死んでしまった。驚いた2人がどんな呪文を言ったのかと聞くとカストロは答えた。「いつもと同じ

だよ。『社会主義か死か』さ」▲実に49年間にわたり国民に社会主義の教義を説き続け、コマンダンテ(司令官)として君臨したキューバのフィデル・カストロ議長である。一昨年夏から病気療養のため公務から遠ざかっていたが、

とうとう国家元首からの引退を表明した▲政治における「カリスマ」は超自然的な戦闘性、精神力、弁舌力をつねに「証し」として求められる存在という。超大国米国に刃向かい、その政権転覆の試みをことごとく砕き、何時間も長大

な演説を繰り広げた議長はまさにカリスマの証しを示し続けることで権力を保ち続けた▲その政治は、一方で反米・反グローバリズムに共鳴する人々の喝采(かっさい)を浴び、一方で棄民のように亡命者を生み出す抑圧者との非難を

呼んだ。その間に残ったのは、抜本改革なしにとても21世紀を生き残れそうにない硬直した経済・社会・政治だ▲カリスマ政治の弱点は、現実的な問題解決能力のある体制にその政治を引き継ぐことの難しさだ。おそらく一国の国民

が半世紀近くにわたって一人のカリスマの夢につなぎとめられる政治は、もうこれが最後ではないか。

毎日新聞 2008年2月21日 0時04分

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2008-02-21(Thu)

フィデル・カストロ議長 春秋(2/21)

春秋(2/21)
 
勉強もできればスポーツも万能、討論や演説がまた水際立っていた――。キューバのフィデル・カストロ議長に神話は数々あるが、少年のころの俊秀ぶりもそのひとつだ。野球が大好きで名投手で、米大リーグにあこがれていたという。

▼この若者はやがてユニホームを戦闘服に着替える。大学を出て弁護士になるがバチスタ独裁政権打倒を決意し、モンカダ兵営襲撃に及んだ。獄中での「歴史は私に無罪を宣告するだろう」という言葉、その後のメキシコ亡命、祖国への再上陸、チェ・ゲバラと手を携えたゲリラ戦。革命成就への物語は波瀾万丈(はらんばんじょう)だ。

▼それから半世紀。冷戦後も米国の「裏庭」でひとり突っ張ってきた現代史上のカリスマがついに表舞台から退く。高齢で一時は生命の危機もささやかれていたから当然だろう。とはいえ、ときに10時間を超える大演説をぶち、野球への情熱もまた衰えぬ異形の指導者の引退に、一時代の終焉(しゅうえん)を思わずにいられない。

▼反米を貫く彼が大きく傾斜していったのは、共産主義という19世紀以来の妖怪だった。今も独自の歩みを続けるキューバはその呪縛(じゅばく)を解き、新たな道へ踏み出せるだろうか。彼が夢見た大リーグに選手が自由に参加する日が来るだろうか。かの「共産党宣言」が世に出たのは、ちょうど160年前の2月である。

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2008-02-21(Thu)

東芝の敗退 卓上四季(2月21日)

卓上四季
東芝の敗退(2月21日)

かつての「ビデオ戦争」はベータ陣営の敗北で終わった。ソニーが売ったベータ機は、国内だけで四百万台にのぼったそうだ▼次世代DVDの規格争いは東芝が敗退した。東芝が売った再生機は三万台ほどだ。ベータより傷は浅いと

の見方もある。それでも多くの購入者が置き去りだ。市場を主導し特許料で稼ごうと、自社規格にこだわった結果である▼「ビデオ戦争」に続き、ビデオディスクの規格争いもあった。VHDという言葉を覚えている方はどれほどいる

だろう。この陣営とレーザーディスク陣営とがぶつかった。VHDは先行していたが、最後はレーザーディスクに圧倒された▼そのレーザーディスクも、DVDに置き換わった。せっかく集めたディスクを押し入れの隅に眠らせ、悔し

い思いをした人もいるはずだ。技術の進歩は欠かせないものだが、その歴史は、消費者が振り回される歴史とも重なる▼新しいDVDではソニーなどが勝った。一方でDVD自体を必要としなくなる技術も進む。ネットから映像を直

接取り込む。保存する先は、パソコン本体などだ。これが主流になれば、今回勝った陣営も笑えない▼次世代のDVDは、ハイビジョンを録画できるなど高画質が売り物だ。だが現行で十分とみる人も少なくない。決着でどれほど食指が動くか。消費者不在の争いが続く間に、消費者は賢く身を守るようになった。

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2008-02-20(Wed)

国の防衛 編集手帳2月20日付

2月20日付 編集手帳
 
バイオリンなど弦楽器の胴には「魂柱(こんちゅう)」という柱がある。柱を通して表板の振動が裏板に伝わり、音が響く。かなめの部位を称して“魂の柱”とは命名の妙だろう◆国の防衛も一個の弦楽器に似ている。異変の振動を

速やかに察知し、伝達することで国民のあいだに安心という曲を奏でる。最新鋭の艦船やレーダーも大切な弦には違いないが、それを生かす「魂柱」、常に神経の張りつめた人間なしには宝の持ち腐れだろう◆信じがたい事故である。

夜明け前とはいえ視界が良く、波静かな海で、海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船が衝突した。漁船の船体は真っ二つに割れ、船員の親子ふたりが行方不明になっている◆イージス艦には高性能のレーダーがあり、見張りの隊員

も複数いたはずなのに、漁船ひとつも避けられない。「万が一、自爆テロの船だったらどうするのだ」(渡辺喜美金融相)という不安の声が閣内から聞こえるのも道理である◆信じがたいことはまだある。石破茂防衛相に一報が届いた

のは事故発生から1時間半後であったという。装備ばかりがご大層で、艦上にも省内にも大事な「魂柱」が欠落しているように思えてならない◆早春の冷たい海に投げ出された親子の安否が気遣われる。その焦燥と切迫感には比すべくもないが、日本という国の安否もまた。

(2008年2月20日02時40分 読売新聞)

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2008-02-20(Wed)

海の要塞(ようさい)イージス艦 天声人語2008年02月20日(水曜日)付

天声人語
2008年02月20日(水曜日)付

 ギリシャ神話の主神ゼウスは娘の女神アテナに、あらゆる邪悪と災厄から身を守る盾を授ける。アテナはこれに、見た者を石に変える魔物メドゥーサの首をはめ、攻める力を重ねた。盾の名はアイギス、英語の「イージス」である▼

海の要塞(ようさい)にも例えられるイージス艦は、数百キロ圏内にある200の目標を同時にとらえ、必要とあらば破壊する。はるか上空から海面、水中までを見通す「全能の目」の持ち主も、平時には小舟一つに気づき遅れるもの

なのか▼海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」が漁船に衝突し、漁師の親子が不明となった。あたごはハワイでのミサイル試射を終えて横須賀へ、漁船はマグロ漁に向かっていた。長さ12メートルの出船に対し、入り船は165メ

ートル。ひとたまりもなかったろう▼あたご乗員によると、両船とも衝突を避けようとしたそうだが、遅かった。海は穏やかで視界も良く、暗闇でも航海灯がある。ちゃんと見張っていれば起こりえない事故に思えてならない▼あたご

は1400億円を投じた最新鋭艦で、自衛隊でも最強の一隻といえる。国民を守るべき高価な盾が、同胞に災厄を及ぼしては悲しすぎる。機械の目と、乗員の目。自衛隊は二つを大急ぎで磨き直すべきだ▼現場海域は東京湾に近く、多

くの漁船や貨物船が行き交う。逃げも隠れもしない漁船を避けるのに、最先端の探知システムなどはいらない。わが巨体の周囲には民間の船がいるだろうという想像力と、「弱者」を見逃すまいとする海の守り手の責任感。それで足りる。

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