2008-10-11(Sat)
新聞 記事コラム
新聞各紙のコラム欄、(北海道新聞 卓上四季、経済新聞 春秋、毎日新聞 余禄、朝日新聞 天声人語、読売新聞 編集手帳orよみうり寸評)を掲載。 スピーチ、資料作りにお役立て下さい。
2008-08-25(Mon)
管理された社会の息苦しさ 編集手帳8月25日付
8月25日付 編集手帳
春の七草で知られるセリは夏に白い花の冠をつける。泥の中のわずかな根からも芽吹き、冠を競り合うように茎を伸ばす。名前の由来という◆その花もそろそろ見納めのころを迎え、夏も終わりが近い。北京五輪も幕を閉じた。テレビ桟敷を離れ、ゆく夏の寂しさを感じる人も多かろう◆視聴率の都合
で競技日程を分断する商業主義は健在な一方で、「国家スタジアム」での過剰ともいえる演出からは、管理された社会の息苦しさも感じた。期間中もグルジアなどで戦火やテロは止(や)まなかった。平和の祭典という言葉が、ときに虚(うつ)ろに響く大会でもあったろう◆磨き上げた技のぶつかり合い
に、重苦しさ、息苦しさをしばし忘れることができたのは救いである。多くの選手は4年後に向けて再び泥にまみれる練習漬けの日々に戻る。しっかり根を張り、ロンドンでも可憐(かれん)な花を見せてほしい◆メダルの色や数にこだわる気はないが、日本の9個の金のうち7個がアテネからの連覇というのが、やや気がかりでもある。世代交代への種まきも欠かせない。根から力強く芽吹くセリも、種から育てるのは至難の業という。
(2008年8月25日01時49分 読売新聞)
春の七草で知られるセリは夏に白い花の冠をつける。泥の中のわずかな根からも芽吹き、冠を競り合うように茎を伸ばす。名前の由来という◆その花もそろそろ見納めのころを迎え、夏も終わりが近い。北京五輪も幕を閉じた。テレビ桟敷を離れ、ゆく夏の寂しさを感じる人も多かろう◆視聴率の都合
で競技日程を分断する商業主義は健在な一方で、「国家スタジアム」での過剰ともいえる演出からは、管理された社会の息苦しさも感じた。期間中もグルジアなどで戦火やテロは止(や)まなかった。平和の祭典という言葉が、ときに虚(うつ)ろに響く大会でもあったろう◆磨き上げた技のぶつかり合い
に、重苦しさ、息苦しさをしばし忘れることができたのは救いである。多くの選手は4年後に向けて再び泥にまみれる練習漬けの日々に戻る。しっかり根を張り、ロンドンでも可憐(かれん)な花を見せてほしい◆メダルの色や数にこだわる気はないが、日本の9個の金のうち7個がアテネからの連覇というのが、やや気がかりでもある。世代交代への種まきも欠かせない。根から力強く芽吹くセリも、種から育てるのは至難の業という。
(2008年8月25日01時49分 読売新聞)
2008-08-25(Mon)
北京は今、お客さん用の顔 天声人語 2008年8月25日(月)付
天声人語
2008年8月25日(月)付
もう18年も前になる。天安門事件の翌年に北京でアジア大会があって取材に行った。国際社会の信頼を取り戻すのに、中国が懸命になっていた時期だ。開催そのものが危ぶまれたが、各国から約6千人の選手が参加した▼ピリピリした空気を覚悟していたのに、当局者の対応は意外に緩やかだ。
街の雰囲気も明るい。一見の記者が抱いた甘い感想を、しかし、助手に雇った大学生は一蹴(いっしゅう)したものだ。「北京は今、お客さん用の顔をしていますから」▼さて五輪の期間中、中国はどんな顔を見せてくれただろう。やはり開会式の「演出」は後味が良くない。「漢族の子が扮した56民族の
代表」「CGの花火映像」、さらに「口パクの歌」。壮麗な出し物ともども、長く記憶されるだろう▼わけても口パクである。ある少女から「容姿」を、別の少女からは「声」を「いいとこ取り」するやり方には、「個の人格」を軽んじる危うさが透けていないか。「国益のため」という説明を聞くにつけ、国家主義の
横顔が脳裏から消えやらない▼開閉会式の総監督を務めた張芸謀(チャン・イーモウ)氏は、本紙との会見で「小さなことを意図的に拡大するのはよくない」と批判に異を唱えた。だが大きな真実は往々にして、小さな穴からこそ、のぞき見えるものだ▼ともあれ五輪は成功裏に幕を閉じた。17日間にわ
たった「お客さん用」の化粧を落として、中国は宴(うたげ)のあとの日常に戻る。化粧を落とした新たな表情は、大国としての自信を深めていることだろう。その「自信」の先行きに、隣人として目を凝らしたい。
2008年8月25日(月)付
もう18年も前になる。天安門事件の翌年に北京でアジア大会があって取材に行った。国際社会の信頼を取り戻すのに、中国が懸命になっていた時期だ。開催そのものが危ぶまれたが、各国から約6千人の選手が参加した▼ピリピリした空気を覚悟していたのに、当局者の対応は意外に緩やかだ。
街の雰囲気も明るい。一見の記者が抱いた甘い感想を、しかし、助手に雇った大学生は一蹴(いっしゅう)したものだ。「北京は今、お客さん用の顔をしていますから」▼さて五輪の期間中、中国はどんな顔を見せてくれただろう。やはり開会式の「演出」は後味が良くない。「漢族の子が扮した56民族の
代表」「CGの花火映像」、さらに「口パクの歌」。壮麗な出し物ともども、長く記憶されるだろう▼わけても口パクである。ある少女から「容姿」を、別の少女からは「声」を「いいとこ取り」するやり方には、「個の人格」を軽んじる危うさが透けていないか。「国益のため」という説明を聞くにつけ、国家主義の
横顔が脳裏から消えやらない▼開閉会式の総監督を務めた張芸謀(チャン・イーモウ)氏は、本紙との会見で「小さなことを意図的に拡大するのはよくない」と批判に異を唱えた。だが大きな真実は往々にして、小さな穴からこそ、のぞき見えるものだ▼ともあれ五輪は成功裏に幕を閉じた。17日間にわ
たった「お客さん用」の化粧を落として、中国は宴(うたげ)のあとの日常に戻る。化粧を落とした新たな表情は、大国としての自信を深めていることだろう。その「自信」の先行きに、隣人として目を凝らしたい。
2008-08-25(Mon)
五輪の感動 余録
余録:五輪の感動
1908年のロンドン五輪の後、英国で五輪から脱退すべきか否かをめぐって大論争が起きた。活躍した米国選手たちが勝つことに固執してスポーツの真の精神を忘れている、との批判の声が噴出したからだ▲一方は、英国人は紳士でなければならぬという前提が動かぬ以上、グッドプレーが第一で勝
敗は第二であると主張し、他方は、世界は今や米国式を理想的な訓練法としている。国民的偏見にとらわれず最も優れた方式に従うべきだ、と反論した▲前者の主張には、列強が覇を競っていた中でのジョンブル魂の表れという側面もあっただろう。この論争は、13年に開かれた討論会で後者が勝っ
てケリがつき、各国は選手養成に力を入れ出す。日本が初参加を果たしたストックホルム大会の翌年のことだ▲それから1世紀。中国が威信をかけた北京五輪が終わった。狙い通り、金メダル獲得数で中国は初めてトップに立った。かつてお手本とされた米国は精彩を欠き、次回開催国の英国が躍進し
た。100年前の論争の当事者は、この結果に何を思うだろう▲選手が極限まで鍛え上げた体と技で手にしたメダルは尊い。競泳8冠のフェルプス選手や稲妻のように駆け抜けた陸上のボルト選手ら超人の活躍は、人間の無限の可能性を感じさせてくれた。だが、その過程と競技する姿に精神の気高
さを感じるからこそ、感動を味わえる▲迫害も予想される中、肌の露出を極端に抑えた姿で走ったイスラムの女性や、10キロを泳ぎきった競泳オープンウオーターの義足の選手もいた。栄光に包まれるメダリストだけでなく、誇りを胸に戦った選手の姿も、記憶に焼き付けておきたい。
1908年のロンドン五輪の後、英国で五輪から脱退すべきか否かをめぐって大論争が起きた。活躍した米国選手たちが勝つことに固執してスポーツの真の精神を忘れている、との批判の声が噴出したからだ▲一方は、英国人は紳士でなければならぬという前提が動かぬ以上、グッドプレーが第一で勝
敗は第二であると主張し、他方は、世界は今や米国式を理想的な訓練法としている。国民的偏見にとらわれず最も優れた方式に従うべきだ、と反論した▲前者の主張には、列強が覇を競っていた中でのジョンブル魂の表れという側面もあっただろう。この論争は、13年に開かれた討論会で後者が勝っ
てケリがつき、各国は選手養成に力を入れ出す。日本が初参加を果たしたストックホルム大会の翌年のことだ▲それから1世紀。中国が威信をかけた北京五輪が終わった。狙い通り、金メダル獲得数で中国は初めてトップに立った。かつてお手本とされた米国は精彩を欠き、次回開催国の英国が躍進し
た。100年前の論争の当事者は、この結果に何を思うだろう▲選手が極限まで鍛え上げた体と技で手にしたメダルは尊い。競泳8冠のフェルプス選手や稲妻のように駆け抜けた陸上のボルト選手ら超人の活躍は、人間の無限の可能性を感じさせてくれた。だが、その過程と競技する姿に精神の気高
さを感じるからこそ、感動を味わえる▲迫害も予想される中、肌の露出を極端に抑えた姿で走ったイスラムの女性や、10キロを泳ぎきった競泳オープンウオーターの義足の選手もいた。栄光に包まれるメダリストだけでなく、誇りを胸に戦った選手の姿も、記憶に焼き付けておきたい。
2008-08-25(Mon)
記録的五輪 春秋(8/25)
春秋(8/25)
五輪公園の偉観、国家体育場(愛称・鳥の巣)と国家水泳センター水立方(すいりっぽう)は、不夜城のごとく妖しく輝き世界記録を量産した。陸上短距離3冠王のボルト、競泳8冠のフェルプスら超人の活躍が記録的五輪として人々の記憶に刻まれる。
▼五輪競技は滞りなく終了。メダル争いでも13億人の力業で中国は圧勝した。これで胡錦濤主席が言う「侵略と混乱にまみれた中華民族の劣等感」は払拭(ふっしょく)されたのだろうか。五輪閉幕とともに押し込めてきた内外の不満が一気に噴き出す気配もある。ギョーザ事件も少数民族の人権問題もすべて棚上げにしてきた。
▼開会式で「朋あり遠方より来る……」と孔子の言葉で迎えた。その後、遠方の仲間は偽装五輪などと酷評した。論語はこのあとこう続く。「人知らずして慍(いか)らず、亦(ま)た君子ならず乎(や)」(人から認められなくても腹を立てない、それこそ君子ではないか)と。大人(たいじん)の国であるとすれば変化の兆しを早く見たいものだ。
▼冷厳な国際政治の現実はあるが、若いボランティアの多くは柔軟でしなやかだったと現地記者は伝える。神秘の墨絵の国は徐々に世界に扉を開いていくことだろう。中国5000年の歴史の中で17日間のこのスポーツの熱狂は「邯鄲(かんたん)の夢」のごときものだが、世界も中国も五輪によって互いを肌で知った意義は大きい。
五輪公園の偉観、国家体育場(愛称・鳥の巣)と国家水泳センター水立方(すいりっぽう)は、不夜城のごとく妖しく輝き世界記録を量産した。陸上短距離3冠王のボルト、競泳8冠のフェルプスら超人の活躍が記録的五輪として人々の記憶に刻まれる。
▼五輪競技は滞りなく終了。メダル争いでも13億人の力業で中国は圧勝した。これで胡錦濤主席が言う「侵略と混乱にまみれた中華民族の劣等感」は払拭(ふっしょく)されたのだろうか。五輪閉幕とともに押し込めてきた内外の不満が一気に噴き出す気配もある。ギョーザ事件も少数民族の人権問題もすべて棚上げにしてきた。
▼開会式で「朋あり遠方より来る……」と孔子の言葉で迎えた。その後、遠方の仲間は偽装五輪などと酷評した。論語はこのあとこう続く。「人知らずして慍(いか)らず、亦(ま)た君子ならず乎(や)」(人から認められなくても腹を立てない、それこそ君子ではないか)と。大人(たいじん)の国であるとすれば変化の兆しを早く見たいものだ。
▼冷厳な国際政治の現実はあるが、若いボランティアの多くは柔軟でしなやかだったと現地記者は伝える。神秘の墨絵の国は徐々に世界に扉を開いていくことだろう。中国5000年の歴史の中で17日間のこのスポーツの熱狂は「邯鄲(かんたん)の夢」のごときものだが、世界も中国も五輪によって互いを肌で知った意義は大きい。
2008-08-25(Mon)
アフガン 卓上四季
卓上四季
「アフガン」(8月25日)
乾ききった大地に、人手で用水路を掘るとはどんなだろうか。ツルハシとシャベルを頼りにした人海戦術。数百人の手が無数の岩石を運ぶ。「自分たちの村に水を引きたい」。そんな一念が一本の水路を開いた▼アフガニスタンで医療・人道支援に携わる医師の中村哲さん(61)が、一時帰国し、現地の
実情を語った。二〇〇〇年夏からの干ばつで、農地の砂漠化が止まらない。農民が難民となり、水車の音や子供たちの笑い声が、一夜にして消えた▼「百の診療所よりも、一本の用水路が人を助ける」。掘り進んだ水の道は延長十三キロメートルに達し、今も建設が続く。雪解け水が大地を潤し、干
上がった農地が緑の穀倉地帯によみがえった▼だが、国土全体は瀬戸際だ。百万単位の難民、飢餓と治安悪化。アフガンをテロとの戦いの「主戦場」とみる米軍の空爆が激化し、民間人の犠牲も相次いでいる。どんな手を差し伸べられるのか▼日本政府はインド洋で米軍艦船などへの給油を継続す
るために、秋の国会で新テロ対策特別措置法を延長したいようだ。むろん「テロとの戦い」にのめり込む米国の要請があってのことだ▼それは、干ばつと飢餓から人々を救うことになるのだろうか。「爆弾の雨はいらない。パンと水を」。現地で二十年以上活動し、アフガンを肌身で知り尽くした中村さんはそう言った。よくよくかみしめねばならない言葉だ。
「アフガン」(8月25日)
乾ききった大地に、人手で用水路を掘るとはどんなだろうか。ツルハシとシャベルを頼りにした人海戦術。数百人の手が無数の岩石を運ぶ。「自分たちの村に水を引きたい」。そんな一念が一本の水路を開いた▼アフガニスタンで医療・人道支援に携わる医師の中村哲さん(61)が、一時帰国し、現地の
実情を語った。二〇〇〇年夏からの干ばつで、農地の砂漠化が止まらない。農民が難民となり、水車の音や子供たちの笑い声が、一夜にして消えた▼「百の診療所よりも、一本の用水路が人を助ける」。掘り進んだ水の道は延長十三キロメートルに達し、今も建設が続く。雪解け水が大地を潤し、干
上がった農地が緑の穀倉地帯によみがえった▼だが、国土全体は瀬戸際だ。百万単位の難民、飢餓と治安悪化。アフガンをテロとの戦いの「主戦場」とみる米軍の空爆が激化し、民間人の犠牲も相次いでいる。どんな手を差し伸べられるのか▼日本政府はインド洋で米軍艦船などへの給油を継続す
るために、秋の国会で新テロ対策特別措置法を延長したいようだ。むろん「テロとの戦い」にのめり込む米国の要請があってのことだ▼それは、干ばつと飢餓から人々を救うことになるのだろうか。「爆弾の雨はいらない。パンと水を」。現地で二十年以上活動し、アフガンを肌身で知り尽くした中村さんはそう言った。よくよくかみしめねばならない言葉だ。

