余録:野茂英雄投手
明治初期、戯作者の仮名垣魯文(かながきろぶん)が市井の人たちの暮らしぶりをユーモラスに、かつ写実的に描いた「安愚楽鍋(あぐらなべ)」にこんなくだりがある。「こちとらア、四十づらアさげて、色気もそっけもねえけれ
ど、付き合いとくりゃア(略)唐天竺(てんじく)から、あめりかのばつたん国までも、ゆくつもりだア」▲酒に酔った職人が仲間に語ったせりふだ。付き合いのためなら地の果てまでも、の職人気質。野球一筋、まさに「現代の職
人」を連想させる野茂英雄投手だが、13年前、野茂投手が単身「あめりか国」に渡ったのは付き合いのためではない▲純粋に本場大リーガーとの力と力の真剣勝負にあこがれ、日本球界と縁を切った。独特の「トルネード投法」か
ら繰り出す速球とフォークボールがメジャーの大男たちをきりきり舞いさせ、日本中を熱狂させた。だが、05年を最後にここ2シーズン、大リーグでの登板機会がない▲その野茂投手が40歳を目前にした今年、ロイヤルズとマイナ
ー契約を結んだ。日本のファンには、わくわくするニュースだが、野茂投手がホームページに掲載したコメントは「とにかく怪我(けが)せず、頑張りたいです」。例によって色気もそっけもない。「職人・野茂」の面目躍如だ▲5年
前、野茂投手が私財を投じて設立した社会人野球チーム、NOMOベースボールクラブからも昨年秋、一人の若者が大リーグ・マリナーズとマイナー契約を結んだ。7月に19歳になる須田健太投手だ。京都の名門・平安高校を中退
し、一昨年からNOMOクラブで投げていた▲NOMOクラブが掲げるスローガンは「夢をあきらめるな」。新旧2人の夢職人の競演を楽しみにしたい。
毎日新聞 2008年1月8日 0時02分
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